本申請研究は、マウス小腸上皮の陰窩底部に位置するパネート細胞が産生する抗菌タンパク質の産生・分泌制御機構を解明することを目的としている。申請者はこれまでの研究から、インスリンが抗菌タンパク質産生・分泌に寄与する可能性を着想し、その仮説を証明するために以下の3つの実験を行った。 1.インスリン投与実験:マウスへインスリンを投与し、十二指腸と回腸の抗菌タンパク質の遺伝子発現を調べた結果、インスリン投与群で有意にlysozyme mRNA発現が増加した。また、免疫組織化学染色によりパネート細胞内でのLysozyme量を観察した結果、インスリン投与群で平均輝度値、蛍光面積が減少した。 2.インスリン受容体拮抗薬の投与:マウスは摂食後、血中のインスリン濃度が上昇することから、内因性のインスリンの影響を阻害した時に小腸の抗菌タンパク質の産生・分泌がどう変化するのか検討した。絶食したマウスにインスリン受容体拮抗薬のS961を投与し、摂食から2時間後の抗菌タンパク質の産生の遺伝子発現を調べた結果、Lysozyme1とDefa1のmRNA発現が有意に減少した。 3.マウス小腸オルガノイドを用いたパネート細胞の経時観察:インスリンがパネート細胞の抗菌タンパク質が含まれる小胞の分泌を引き起こすか観察するために、マウス小腸からオルガノイドを作製し、顕微鏡下でインスリンの処理を行った。その結果、インスリンは1時間以内にオルガノイドから小胞の分泌を引き起こした。
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