本研究は、日本の固有種であるヤマヨツボシオオアリCamponotus yamaokaiの細胞質内に感染しているトチウイルス様ウイルスであるCamponotus yamaokai virus(CYVウイルス)による宿主アリへの影響を解明することを目的としている。 ヤマヨツボシオオアリは多巣性であり、物理的に離れた複数の巣が一つのコロニーに属していることがある。そのため血縁解析により、それぞれの巣が属するコロニーを明確にし、コロニー間の血縁関係を考慮した方がより良い実験デザインを構築できるはずである。そこで昨年まではマイクロサテライト領域を用いた解析法の確立を行ってきた。しかし本年度にマイクロサテライト領域を用いた血縁解析を行おうとしたが、昨年度に安定的に増幅が見られたプライマーペアを用いても、個体群によって増幅の有無に差が見られたため、血縁解析を行うことができなかった。 CYVウイルス感染によるアリへの影響を解明するため、CYVウイルス感染状況の異なるアリを用いた比較が必要である。そのようなアリを効率的に採集するため、日本各地の8個体群においてヤマヨツボシオオアリを採集した。そのうち2個体群では女王アリ、オス、メス、大型ワーカー、小型ワーカーぞれぞれのカーストのCYVウイルスの感染状況を調査した。その結果、感染率はカースト間に大きな差が見られなかった。そこで残りの個体群においては、巣内で最も個体数の多い小型ワーカーを用いて、各巣のCYVウイルス感染率を解析した。その結果、解析を行った全ての巣からCYVウイルスが検出され、その感染率は巣によって異なっていた。
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