研究実績の概要 |
低温ショックタンパク質のひとつであるCold-inducible RNA-binding protein(CIRP)は、低温下にて発現が上昇し、他のRNAに結合することで、障害に対して細胞を保護する機能が報告されている分子である。そこで、冬眠動物は、冬眠時に低温下でCIRPの発現及び機能を変化させることで低体温耐性を獲得していると予想している。 これまでの研究で、冬眠動物であるシリアンハムスターにおいて、冬眠時にはCIRP遺伝子に特徴的な選択的スプライシングの変化が起こっていることを明らかとしてきた。本研究では、非冬眠動物であるマウス及びラット(Shimaoka et al., J Physiol Sci, 2021, 71:10)においても、麻酔薬を投与することによって低体温へ誘導することに成功した。さらに、冬眠様の選択的スプライシングパターンを誘導することも可能であった。また、定量的RT-PCR法による解析により、選択的スプライシングのパターンが冬眠型に変化する状況ではCIRP mRNAの発現量が効率よく増加していることを示した。様々な温度でのCIRP mRNA動態について解析したところ、選択的スプライシングによる発現調節の重要性が示された。冬眠動物はCIRPの選択的スプライシングパターンを変化させることによって、効率よくCIRP mRNAの発現及び機能を調節し、低温耐性を発揮している可能性が考えられる。本研究の結果は、選択的スプライシングの調節という着眼点により、画期的で安全な人工冬眠誘導法の開発に寄与するものである。
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