研究課題/領域番号 |
20K22654
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
砂留 一範 京都大学, 高等研究院, 特定助教 (60872992)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | spatial transcriptomics / 転写後プロセシング |
研究実績の概要 |
本研究計画は空間情報を保持したトランスクリプトーム解析法の一つであるHybridization-based in situ sequencing (HybISS)を応用し、骨格筋や運動神経において転写後プロセスの空間情報を網羅的に明らかにし、その制御システムの種間の違いや疾患が及ぼす影響について明らかにすることである。当該年度は主にHybISSの立ち上げを行った。これまでに筋細胞やiPS細胞を含めた培養細胞や、マウス胚や成体の骨格筋、肝臓などの組織切片において動作する事を確認した。また、エクソンのジャンクション部分あるいはイントロン部分にプローブを設計する事により、スプライシングが起こった転写産物あるいは新生RNAを検出する事ができた。この方法を用いて、ヒト筋前駆細胞の分化過程において40遺伝子の成熟RNAと新生RNAを標的にHybISSを行った。その結果、核の近傍に集積するものや細胞質全体に拡がるもの、細胞膜付近にあるものなど、遺伝子により異なる局在パターンが見られた。また遺伝子の中にはスプライシングは起こっているものの、その多くが核内から搬出されず核内に留まっているものも存在した。これらの局在パターンの違いが生まれるメカニズムを調べるために1000遺伝子ほどを標的としたHybISSを行う事を念頭に、RNA-seqを行いターゲット遺伝子を選定している。また、このような転写産物の細胞内ダイナミクスに力学的環境要因が与える影響を調べるために、マイクロデバイスを用いた筋肉オルガノイドの実験系を立ち上げた。この系において筋肉組織が付着するPDMSポールの数やかたさを変化させる事により、筋肉組織にかかる張力や筋肉組織のかたさがどのような影響を受けるか解析した。次年度では本年度の研究結果をもとに、転写産物の細胞内ダイナミクスをより詳細に解析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主にHybISSの立ち上げを行った。これまでに筋細胞やiPS細胞を含めた培養細胞や、マウス胚や成体の骨格筋、肝臓などの組織切片において動作する事を確認した。また、エクソンのジャンクション部分あるいはイントロン部分にプローブを設計する事により、スプライシングが起こった転写産物あるいは新生RNAを検出する事ができた。また、これらプローブの自動作製プログラムを作製した。翻訳中の転写産物を可視化するために、抗リボソーム抗体にリンカーオリゴを付けリボソーム近傍のRNAのみでrolling circle amplificationを起こす事を試みた。この事を目的に、まずClick-chemistry法により抗体に低コストでオリゴを付加する方法を確立した。リンカーオリゴ付き抗体を用いて目的とする反応を行ったものの、非特異的な増幅が多く見られたため、リンカーオリゴの配列や長さに対する検討が必要である。 ヒト筋前駆細胞の分化過程において40遺伝子の成熟RNAと新生RNAを標的にHybISSを行い、遺伝子ごとの局在パターンの違いを明らかにした。この違いを生み出すメカニズムを明らかにするために1000遺伝子ほどを標的にHybISSを行う事を予定している。現在RNA-seqを行い、標的遺伝子を選定している。 転写産物の細胞内ダイナミクスに力学的環境要因が与える影響を調べるために、マイクロデバイスを用いた筋肉オルガノイドの実験系を立ち上げた。筋肉組織が付着するPDMSポールの数やかたさを変化させる事により、筋肉組織にかかる張力や組織のかたさがどのような影響をうけるか解析した。また、培養された筋組織からHybISSで解析可能な凍結切片を作製するプロトコルを樹立した。 モーターニューロンの作製については現段階でヒトiPS細胞を用いて誘導を試みている段階である。
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今後の研究の推進方策 |
筋肉の培養細胞の系を用いてHybISSを行い1000遺伝子程の転写産物の局在を網羅的に解析する。遺伝子の機能ごとによる違いや、スプライシングバリアント間で変化がないかなどについて解析を行う。また、リボソームプロファイリング、成熟RNAと新生RNAを標的とした絶対定量PCRを行い、遺伝子の局在パターンと、翻訳効率の違いやRNAの分解速度との関連について調べる。これらの実験はヒト、マウスの筋前駆細胞株と、それぞれの種のiPS細胞からつくられた筋細胞で行う。また、筋ジストロフィーの主な原因遺伝子であるジストロフィン欠失型の筋肉でこのような細胞内RNAダイナミクスがどのように変化するかを調べる。 翻訳が起こっているRNAを可視化する技術を確立する。抗体につけるリンカーオリゴやプローブのリンカーオリゴ相補的な部分の長さや配列に対してさらに検討を行う。また、frankenbodyなどの過剰発現型のプローブを使う事も考える。 また筋肉オルガノイドの系を用いて、筋肉組織に働く張力や筋肉組織のかたさをPDMSポールの数やかたさを変える事で変化させ、RNAの局在パターンや翻訳効率、分解速度はどのように変化するかを解析する。 以上の筋肉のパートで論文としてまとめる事を考えている。モーターニューロンについては今年度中に安定して誘導できることを目標とする。
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