本研究計画は、空間情報を保持したトランスクリプトーム解析法の一つであるHybridization-based in situ sequencing (HybISS)を応用し、骨格筋や運動神経において転写後プロセスの空間情報を網羅的に明らかにし、その制御システムの種間の違いや疾患が及ぼす影響について明らかにすることである。本年度はHybISSのプロトコルの改良と、ヒトとマウスの筋細胞における転写産物の細胞内局在について比較を行い、以下の成果を得た。 通常のHybISSでは検出できるコピー数は3-10%程度であり、発現量の少ない遺伝子の検出に問題があった。HybISSのプローブ構造やバーコードの増幅過程を改変する事によって、検出効率を5倍程度上げる事に成功した。また、超解像イメージングや3D組織への適応を念頭にexpansion microscopyとの併用について条件検討を行い、これらが両立する結果を得た。 ヒトとマウスの筋細胞に対してエクソンのジャンクション部分を標的としたHybISSを行い、マウスに比べヒトの細胞では、スプライシングが終了し成熟フォームとなったRNAが核に留まる割合が高い事が分かった。マイクロデバイスを用いたヒト筋肉オルガノイドに対して、これら成熟フォームRNAに対するHybISSを行い、静的な張力を発生させた状態では張力のない状態に比べて、核外に存在する成熟RNAの割合が顕著に増加する事を見出した。これは細胞に働く張力とRNAのスプライシングや細胞内局在との間に、何らかの関係がある事を示唆している。今後は、張力依存的な転写産物の局在制御や、種の違いや疾患によってその効力がどのように変化するのかについて、改良型HybISSを用いてより詳細な解析を行いたい。
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