ミトコンドリアは外膜と内膜からなる二重膜オルガネラであり、融合と分裂を絶えず繰り返して膜構造を動的に変化させることで、ミトコンドリアの正常な機能を維持している。これまで、ミトコンドリア分裂については、外膜側からの切断機構について研究が進められてきたが、分裂と連携して起こるはずのミトコンドリア内部構造の変化は考慮されてこなかった。これまでに研究代表者は、ミトコンドリア内部構造の形成を司る因子がミトコンドリア分裂にも関与することを見出した。そこで本研究では、ミトコンドリア内部からの自律的な制御に着目して分裂機構を解明することで、ミトコンドリア分裂機構の全容を明らかにし、二重膜オルガネラの分裂機構と内部構造の協調についての理解を目指す。 酸素消費によりATPを産生するミトコンドリアは、低酸素環境下ではその機能が大きく影響を受ける。ミトコンドリア形態についても同様に、低酸素下では分裂が促進し、断片化したミトコンドリアが増加する。そこで令和3年度は前年度から引き続き、ミトコンドリア分裂を引き起こす生理的条件として低酸素環境に着目し、低酸素環境で培養した動物細胞についてミトコンドリアの機能を解析した。低酸素下でミトコンドリアタンパク質の発現量や局在を解析し、ミトコンドリア膜電位との関係について調べた。結果として、低酸素環境では、ミトコンドリアマトリックスに局在するシャペロンやリボソームタンパク質の凝集が蓄積することがわかった。また、凝集タンパク質の解消に関わるストレス応答因子の発現量の増加が見られた。これらのことから、低酸素環境では凝集タンパク質の蓄積によりストレス応答が引き起こされていることが明らかになった。今後は、本研究で見られた低酸素下におけるストレス応答経路が、外膜の分裂因子Drp1に及ぼす影響を解析し、ミトコンドリア分裂における内部因子を介した制御機構を明らかにする。
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