研究課題
TDP-43は、RNA結合タンパク質で、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭型認知症(FTD/FTLD)をはじめとする複数の神経変性疾患の病巣で見られる凝集体の主要成分として知られている。本来、核に存在するTDP-43を細胞質内で凝集させる病的仕組みは、まだ解明されていない。この病的機構を明らかにすることが、新たな治療戦略の開発に必要不可欠と想定されている。申請者は、最近、dynactin 1 (DCTN1/p150Glued;逆行性微小管モーターdyneinを制御する必須アダプター、dynactin複合体の最大サブユニットであり、遺伝性パーキンソニズムを示すPerry症候群(Perry病)の原因遺伝子産物)が、TDP-43と相互作用することを発見した。更に、このDCTN1-TDP-43相互作用の生化学的、細胞生物学的な特性と意義に迫るべく、解析を進めた。Perry症候群をはじめとする病的条件下では、この相互作用が当初減弱すると予想していたが、むしろ異常レベルまで強化され、相互作用の制御系が破綻することで、TDP-43細胞質-核内輸送が抑制され、TDP-43の細胞質内での凝集体の形成を促進する仮説を提唱することが出来た。この成果は、International Journal of Molecular Sciences誌上で原著論文として発表した(タイトル:DCTN1はTDP-43と結合し、TDP-43の凝集体形成を制御する)。発表後、良好な反響を得ているところである。この成果を手掛かりに、更に解析を推し進め、核外でTDP-43の凝集体形成を引き起こす初期過程の解明に取り組みたい。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は以下の研究計画を立案した。1) DCTN1-TDP-43相互作用とその意義:タグ付きDCTN1とTDP-43間、また内在性に発現するDCTN1とTDP-43間で共免疫沈降を行い、相互作用を証明した。Perry症候群でDCTN1-TDP-43相互作用の制御系が破綻することを示すことが出来た。DCTN1-TDP-43間の直接的な結合も証明した。DCTN1とTDP-43のどのドメイン間で結合するか、部分欠失変異体群を用いて共免疫沈降実験を行い、これまで機能的に重要視されていなかったDCTN1のC末側領域がTDP-43との相互作用に関与することを明らかにした。2) Perry病の原因となるDCTN1変異体、あるいはDCTN1のC末側でTDP-43との結合に関与するドメインを非神経性モデル細胞、あるいはiPS細胞から分化させた神経細胞において過剰発現させると、TDP-43の核内での局在が異常となり、細胞質内での異所的な局在が有意に観察された。更に、DCTN1の細胞内凝集体が顕著に認められた。以上の成果から、TDP-43の細胞質内異所的局在、細胞質内凝集体形成にDCTN1が重要な役割を果たすことを明らかにすることが出来た。当初の研究計画よりも早く、第一目標の成果発表に到達したと考える。
予定どおり、Perryモデル系におけるDCTN1-TDP-43相互作用の破綻と凝集体形成の解析に着手した。申請者らが作成したマウスモデル由来の神経細胞、あるいは発生期にin utero遺伝子導入して生後取り出した中脳組織を用いて、DCTN1とTDP-43凝集体の形成過程と神経変性過程を可視化し、time-lapse imaging解析する予定である。時間的余裕があれば、申請者グループがPerry患者から既に作成したiPS細胞を用いても検証したい。iPS細胞からドパミン神経細胞に分化させた病態細胞モデルを使って、DCTN1とTDP-43の凝集過程と神経変性過程を調べる。患者脳内で生じるTDP-43病理をin vitroの神経細胞で再現することで、DCTN1変異の病的役割を解析したい。
消耗品の購入が想定より低額で研究成果をまとめることが出来たため、次年度使用額が生じた。しかし、比較的少額のため、次年度の助成金と合わせて、当初の使用計画に基づいて使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
International Journal of Molecular Sciences
巻: 22 ページ: 3985