研究課題/領域番号 |
20K22665
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
隈元 拓馬 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 主席研究員 (10570880)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 脳進化 / 鳥類大脳 |
研究実績の概要 |
本研究は哺乳類と非哺乳類の大脳の発生過程の比較解析を行うことで、生物種に特異的な大脳外套構造を生み出す発生学的基盤を明らかにすることを最終的な目的とする。そのために、最近研究代表者が開発したゲノム挿入依存的遺伝スイッチ(iOnスイッチ)と最新のイメージング技術を用いてこのメカニズム解明に取り組み、鳥類脳の核型配置機構を明らかにすることを取り組んできた。 当該年度では、まず必須であったiOnスイッチの拡充を行った。その結果、これまでよりも多いカラーコンビネーションで、最大4色まで同時に神経細胞を標識できるようになった。また各技術を鳥類脳へ適応するための条件検討を行なってきた。透明化脳の全脳イメージングに関しては、透明化法は当該年度で最適化したので、今後より良い撮影条件を検討する余地がある。大脳層マーカー遺伝子発現解析においては、これまで報告されていた情報や、新たな抗体のテストなどを含め、本研究に必要な抗体の染色条件は当該年度でほぼ決定できた。また鳥類大脳を用いたタイムラプスイメージングも、多く回を重ね、ある程度条件が決まってきた。今後はさらなる細胞希釈標識法の確立と、なるべく長時間、ずれることなくイメージングを行えるように環境を改良していく余地がある。 研究全体の概要としてとして、当該年度の研究計画は概ね順調に進んでいる。次年度も引き続き同様のペースで研究を進め、結果を公表できるようにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに新たな色を発現するiOn plasmidとして、iOn-CFP、iOn-YFP、そして新しいiOn-EGFPのプラスミド を作成した。その後、ニワトリ大脳及びマウス大脳皮質を用いてその発現パターンを確認したところ、既存の iOnスイッチと組み合わせて、最大4色まで神経細胞を標識できることを確認した。 iOnプラスミド導入後のニワトリ大脳の透明化においては、複数の透明化試薬を試した結果、全脳透明化についてはCUBICが最も効率が良かった。Thick sectionを用いる場合は、Scale法が簡便で十分な透明化を示した。透明化脳の観察においては、ライトシート顕微鏡、共焦点顕微鏡、多光子顕微鏡、蛍光顕微鏡などを用いて比較を行った。この点はまだ十分にスクリーニングは終えていないが、共焦点顕微鏡もしくは多光子顕微鏡を用いた撮像が、ニワトリ全脳を用いた場合は適していることがわかったが、さらなる検討が必要である。 ニワトリ大脳神経細胞の抗体染色においては、Tbr1、Ctip2、Satb2、Brn2、Reelin、NeuN、Pax6、Sox2、Tbr2など、大脳の層マーカー遺伝子、及び前駆細胞遺伝子を用いた染色において、各脳のステージでの最適条件を整えることができた。iOnスイッチを用いたタイムラプスイメージングも、概ね撮影条件は整ってきている。
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今後の研究の推進方策 |
今後さらなる条件検討が必要なものは、透明化後の全脳イメージング撮影と、タイムラプス撮影においてより生存率が高く、標識細胞が少ない脳を準備できるように検討することである。 さらに全脳イメージング撮影後のデータをまとめ、共焦点顕微鏡を用いた遺伝子マーカー発現データのマッピングを行い、標識細胞がどのような細胞領域へと配置されるのかを統合できる方法を、今後検討する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に想定していた旅費(学会参加費、共同研究打ち合わせ等)が全て無くなったため、次年度へ繰り越した。物品費に関しては、所属研究所の共通機器が非常に充実していたので、そちらを優先して使わせてもらったことで、想定していた分よりかなり費用を抑えることができた。また当該年度に研究代表者が中心となって論文を発表することがなかったので、その他に計上していた経費も予定より使うことなく繰り越した。今後繰越した金額を用いては、投稿論文の出版費用、高額な抗体の追加購入や、顕微鏡付属機器の購入も視野に入れている。このように次年度においては、予定していたよりも出版費や周辺機器の充実にも予算を回し、当該研究計画がより円滑に進むように配分し執行していく。
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