研究課題/領域番号 |
20K22669
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
福田 和也 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 助教 (20882616)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 性表現 / 系統進化 / 生殖細胞 / 無腸動物 / シングルセル解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的であるシングルセル解析を実施するためには、謎の多い無腸動物ナイカイムチョウウズムシにおいて最適な実験手法・分析手法をまず確立する必要がある。本年度はシングルセル解析の前段階として(1) ナイカイムチョウウズムシの個体を分散した細胞プールから生殖細胞のみを正確・効率的に回収するために必要となる遺伝子マーカーの検討 (2)RNAの分解を防ぎつつナイカイムチョウウズムシの細胞を分散する方法の確立、を行った。以下にそれぞれの実施状況を述べる。(1) ナイカイムチョウウズムシの体内において、生殖細胞が局在する位置は先行研究によって記載されている。そこで、生殖細胞・幹細胞に発現することが予想される8遺伝子をクローニングし、whole mount in situ hybridization法によってそれらの遺伝子発現領域を検出したところ、生殖細胞に限定して発現する遺伝子、雄性生殖器官に限定して発現する遺伝子などを特定した。これらをマーカーとして利用することで、ナイカイムチョウウズムシの細胞プールから生殖細胞のみをラベルし回収することが可能と考える。(2) 組織 (もしくは個体) を単一細胞レベルに分散する場合、組織ごとに最適な手法・条件が異なることが多い。多くの場合酵素処理を行うことで細胞を分散するが、シングルセル解析に供することを考えた場合、細胞を損壊する危険性があるだけでなく、時間がかかるためRNAの品質が低下する可能性がある。そこで、細胞分散の方法を探索した結果、酵素処理を行わずに短時間で個体を単一細胞に分散する方法を確立した。(1)(2) で確立した手法を元に、次年度でシングルセル解析を実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RNA-seqを行う場合、いかに高品質なライブラリを作成するかが非常に重要な課題となる。シーケンスができたとしても、そもそもそれに供する核酸サンプルが目的の解析に適する品質でなければ解析結果を正しく解釈することができない。従って、本年度はシングルセル解析に進む前に、下拵えにあたる試料の調整方法の確立を慎重に行なった。その結果として、シングルセルRNA-seq解析に適すると期待できる試料調整の方法を確立することができている。これを初年度に完了できたため、、残りの1年でシングルセル解析を実施し、分析・解釈・総括することは十分に可能と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で確立した方法を利用して、シングルセル解析を実施する。実際には、以下に述べる様に段階的に実験を進行する。まず、初年度で生殖細胞のみに発現することを確認した遺伝子に注目し、その遺伝子の転写産物を分散させた細胞内で蛍光ラベルする。その後、蛍光強度を指標にしてソーティングを行い、細胞プールから生殖細胞のみを回収する。回収した細胞中に存在する転写産物に対し、split-pool barcoding法を改良した方法によって細胞特異的なラベルを付加して次世代シーケンサによるシーケンスを行う。これをin silicoで単一細胞ごとの情報に再構築し、生殖細胞の性分化に伴う遺伝子発現プロファイルの推移を明らかにする。これら各段階の実験に関しては既に並行して準備を進めており、現状のところ次年度中に完了できる見通しである。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は新型コロナウイルス感染症の影響で、学会・研究集会の参加予定など多くの予定が変更されることとなった。これらの調整のために、残額が生じることとなった。次年度は次世代シーケンサを用いた解析など、受託解析を多く実施する予定なので、この費用をそれらに追加利用する。
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