研究実績の概要 |
本研究全体の計画は、非モデル動物である無腸動物(ナイカイムチョウウズムシPraesagittifera naikaiensis, 以下無腸動物と記載)を対象にシングルセルRNA-seqを行い、生殖細胞の性分化メカニズムを明らかにすることである。昨年度は、(1)生殖細胞マーカーとなるmRNA発現を検出、(2)個体を構成する細胞分散方法の確立、を行った。今年度は、まず個体を分散した全細胞から生殖細胞マーカーを発現する細胞のみを回収する方法の確立を目指した。シングルセルRNA-seqを行う際、注目する特徴を持つ細胞を濃縮することは、希少細胞を損失する可能性を低下させより網羅性を確保した分析を行う上で欠かせないステップである。そこで、近年開発された手法(SABER-FISH、およびProbe-seq)の適用を試みた。上記の手法に従って、生殖細胞マーカーとなる細胞内mRNAへ蛍光プローブをハイブリダイズさせその結果を確認したところ、顕微鏡下では細胞の蛍光を確認できなかったものの、セルソーターではネガティブな細胞との微弱な蛍光強度の差を検出した。ソーティングに実用するには、より蛍光シグナルのS/N比を向上させる必要があったが、様々な条件検討を重ねたものの改善することができなかった。一方で、無腸動物の体内に共生する藻類由来の細胞は、葉緑体の自家蛍光に基づいて無腸動物の細胞と分離することができた。以上のことから、無腸動物に対してシングルセル解析を含む単一細胞レベルの実験を行おうとする場合、現状としては細胞分散後にセルソーターに供し、共生藻類を除去して下流の分析に利用する(目的細胞の濃縮は行わない)ことが現実的な方法と結論した。
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