研究課題/領域番号 |
20K22670
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山崎 博史 九州大学, 基幹教育院, 助教 (80750330)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | メイオベントス / 系統進化 / 種多様性 / 動吻動物 / トゲカワムシ |
研究実績の概要 |
2020年度は、トゲカワムシ科動吻動物の分子データの取得ならびに形態観察を行った。分子データの取得は、ミトコンドリアCOI遺伝子と各ITS領域の配列決定を優先して実施した。 日本周辺海域・ベトナム・地中海などから採集したトゲカワムシ科動吻動物およそ350個体は、研究開始時点で既にDNA抽出済み・外骨格を形態観察用にスライド作成済みであった。これらの抽出済みDNAを基に、ほぼ全個体のCOI遺伝子塩基配列を決定する事が出来た。これらの個体の塩基配列情報に、既にGenBank等で公表されている種の配列を加え、暫定的な系統解析を行ったところ、トゲカワムシ科内部に少なくとも80系統グループを認めることができた。これの系統グループの多くは、遺伝的際の程度から、それぞれ種に相当すると予想される。一方でいくつかの系統群は、形態的には非常に似通っている事が判明している。そこで形態データの再精査を行うため、追加標本作成を行い、現在形態観察を進めている最中である。 また、およそ80系統グループの内、41グループについてはミトコンドリア遺伝子塩基配列に加えてITS領域の塩基配列(ITS1およびITS2)を決定済みである。 形態観察は、上述の形態データ再精査を行っているグループに加えて、未記載種の可能性が高いグループを優先して実施している。これまでにベトナム産の1種、東シナ海深海底産3種、オホーツク深海底産1種について、追加標本観察のためのスライド作成を行い、現在形態観察を行っている所である。観察の結果、未記載種であることが判明した暁には、新種として記載を行う予定である。 2021年度にはこれらのデータに加え、新規分子実験(CytB遺伝子塩基配列決定)および形態観察結果データをまとめて、系統解析を実施し、科内の系統関係解明を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度内に、研究実施に必要な実験器具や実験環境の整備を完了する事が出来た。また、系統解析に用いる予定の個体のうち、全個体のCOI遺伝子塩基配列を決定する事が出来、これを基に系統解析を実施する事で、暫定的ではあるがトゲカワムシ科内の系統関係の推定を行うことができている。この結果、少なくとも80系統群がトゲカワムシ科内に認められており、以降は各系統群ごとにさらなる分子データおよび形態データの解析を進めている。ミトコンドリアCOI遺伝子に続き、ITS領域の配列決定を試みたころ、およそ40系統については問題なくその塩基配列を決定できた。残りの40系統については、キメラ配列を有していることが判明したため、ゲルの切り出しやクローニング等を用いて配列決定を試みる予定である。 形態観察についても、各系統群単位で実施している。いくつかの系統群については、遺伝的には差異がみられるものの、形態的には非常に似通っているグループも存在する事が明らかになった。このため、形態データを再精査すべく、新規に複数個体を封入しスライド標本を作製、形態観察を実施中である。またこれに加えて、未記載種の可能性が高い系統群も見つかっている。これについても新規形態観察を実施するため、標本作成を行った。現在、観察を進めている最中であるが、既知種との比較の結果、未記載種であることが判明した暁には、新種として記載を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は当初の予定通り、2020年度に引き続き分子データおよび形態データの収集を行う予定である。 分子データについては、ITS領域の配列未決定の40系統群の配列決定、および全80系統群のシトクロムb遺伝子塩基配列決定を目指す。ITS配列決定を試みる40系統については、この領域がキメラ配列となっている事が判明したため、ゲルの切り出しやクローニング等を用いて配列決定を試みる予定である。シトクロムb遺伝子塩基配列については、既にプライマーの設計を終了しているため、順次、PCRおよびシーケンスを行い、全グループの塩基配列を決定する。 形態データは既に封入済みの標本に基づいて行うほか、走査型電子顕微鏡を活用した微細形態の観察も実施する。特にCOI遺伝子に基づく系統解析により判明した、「遺伝的には異なるが、形態的には非常に類縁なグループ」については、走査型電子顕微鏡観察による新規分類形質の探索も視野に入れて、形態観察を行う。また、未記載種の可能性が高い系統群について、既に観察を実施中であるが、既知種との形態的差異が判明次第、新種記載を行う。 またこれに並行して、系統解析に用いる系統群の生態データ(塩濃度、水深、底質など)についても取りまとめを行う。 全てのデータの用意が整い次第、分子データおよび形態データを用いて系統解析を実施する。得られた系統樹に生態データ・形態データをプロットし、トゲカワムシ科の進化プロセスについて考察を行う。
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