研究実績の概要 |
血管性認知症において、オリゴデンドロサイトの分化が障害されることが報告されており、内因性の分化誘導を促進するような治療法が期待される。本研究は、血管性認知症におけるオリゴデンドロサイトの分化障害を改善できるミクログリアの形質や誘導条件を同定し、血管性認知症に対する治療応用へと展開する研究基盤を確立することが目的である。
これまでの実験において、初代培養系ミクログリア、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)を用いた実験により、異なる酸素分圧でのミクログリアの極性変化をmRNAレベルで確認した。その結果、軽度の低酸素刺激がミクログリアの極性をM2タイプに変化させることを確認した。また、低酸素ミクログリアの細胞上清をOPC培養系に加えることで、オリゴデンドロサイトの分化を促進することを確認した。さらに、両側総頸動脈にマイクロコイルをまきつけて作成する脳血管性認知症モデルマウス(bilateral carotid artery stenosis, BCASマウス)では、白質病病変の形成、OPCの分化障害、ミクログリアのM1タイプへの極性変化、ミクログリアの活性化が起こることを確認した。低酸素ミクログリアの細胞上清をBCASマウスに投与することで、オリゴデンドロサイトの分化のマーカーの一つであるミエリン塩基製タンパク(MBP)の改善を認めた。以上の結果より、低酸素刺激によるpreconditionを受けたミクログリアは慢性脳底潅流により分化障害を起こしているオリゴデンドロサイトの分化障害を改善させる可能性を見出した。
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