発作性運動誘発性ジスキネジア (PKD) は急激な動作時に生じる不随意運動を特徴とする神経疾患であるが、その発症に関わる脳領域や神経回路、神経サブタイプは特定されていない。研究代表者は運動機能やジスキネジアに関連する脳部位として、大脳基底核の線条体に着目してPRRT2の役割を解析してきた。PKD関連変異を導入したPrrt2 KIマウスと野生型マウスの線条体においてマイクロダイアリシスを行い、間質液中のドーパミン濃度を測定し比較したところ、定常状態では両者に差は見られないのに対し、KClにより神経刺激した際には、野生型に比べてPrrt2 KIマウスで間質液中ドーパミン濃度が約6倍増加するという結果を得ている。 令和3年度では、Prrt2 KIマウスの運動誘発性の運動障害を評価するためにロータロッド試験を行い、回転する棒から落下するまでの時間を4日間にわたって野生型とPrrt2 KIマウスで比較した結果、いずれの日においてもgenotype間の差がないというデータを得た。一方、Prrt2 KIマウスの線条体でドーパミン伝達が過剰になっているという前述の結果に基づき、ドーパミン前駆体であるL-ドーパまたは溶媒を野生型およびPrrt2 KIマウス腹腔内に投与し、ロータロッド試験を実施したところ、L-ドーパ投与時にのみ野生型に比べてPrrt2 KIマウスの運動機能が低下した。このことは、PKDの病態が過剰なドーパミン伝達に関連していることを示唆している。 これらの結果から、PRRT2の機能低下は運動時における線条体での過剰なドーパミン伝達を介して、大脳皮質-大脳基底核の運動回路を過剰興奮させ、PKD発作を引き起こすと考えられ、これを「線条体ドーパミン説」と命名し、新たなPKDの発症メカニズムとして提唱する。
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