本研究の目的は、網膜内層神経障害の分子メカニズムの解明と新規治療法の開発である。申請者らは以前から網膜内層神経障害動物モデルにおいて、その神経細胞死に転写因子である低酸素誘導因子(hypoxia-inducible factor: HIF)が関与している可能性を報告してきた。本研究で、これらの結果がHIF特異的であることを検証するため、網膜神経細胞特異的にHIF遺伝子をノックアウトしたマウス(Chx10-Cre;Hif1aflox/floxマウス)を新たに作成し、ノックアウトマウス網膜が内層障害に対して耐性があることを示した。さらに、HIFは転写因子であり、その下流にはいくつものターゲット遺伝子が存在する。網膜内層における遺伝子発現を調べるためにLaser-captured Microdissection(LCM)法を用いて網膜I/Rモデルの網膜内層を単離し、その組織サンプルをqPCRアレイで解析することでBNIP3遺伝子が関与していることを見出した。このBNIP3が網膜内層における特異性を検証するために、その遺伝子をAAV2(Adeno-associated virus 2)-CRISPR/Cas9システムを用いて、硝子体内投与により網膜内層特異的にノックアウトするモデルを確立した。このマウスモデルにおいてBNIP3の関与を確認するため、網膜I/Rを行い組織学的、電気生理学的に神経障害に対する保護作用を検証した結果、網膜特異的BNIP3ノックアウトマウスではI/Rによる障害に対して保護的な作用を認めた。以上の結果から、緑内障をはじめとする網膜内層障害に対してHIF-1/BNIP3経路が関与していることが示唆された。申請者は以上の結果を報告した。(Kunimi et al.FASEB J.2021.)
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