研究課題/領域番号 |
20K22697
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研究機関 | (財)冲中記念成人病研究所 |
研究代表者 |
間野 かがり (財)冲中記念成人病研究所, その他部局等, 研究員 (00877780)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 孤発性アルツハイマー病 / エピゲノム解析 / ヒストン修飾解析 / 死後脳 / 神経細胞特異的 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病では疾患特異的な病理学的変化として、神経細胞のみにリン酸化タウという異常タンパク質が蓄積することが知られている。一方で、脳を構成する細胞のうち神経細胞が占める割合は全体の半分以下と意外にも少数派である。故に、孤発性アルツハイマー病(AD)の脳内における疾患特異的な病態探索を行う上では、脳内の神経細胞にターゲットを絞ることが重要であると考えた。そこで、孤発性アルツハイマー病の病態を探索するために、死後脳由来の神経細胞核を用いて、死後変化を受けにくい情報である「ヒストン修飾情報」を解析し、病態の背景に存在する「神経細胞特異的な発現制御機構」を網羅的に探索することとした。対象とするヒストン修飾は遺伝子の発現と正の相関があるとされるH3K4me3を用いた。死後脳から神経細胞核を単離し、クロマチン免疫沈降法を用いてヒストン修飾の存在するゲノム領域を濃縮した。濃縮後得られたゲノム断片を、次世代シーケンサを用いて解析し、ヒストン修飾の存在するゲノム領域とその修飾量とをAD群と正常群との2群間において比較検討した。結果、疾患特異的にヒストン修飾量が有意に変化しているゲノム領域を22箇所検出し得た。そこからは遺伝子の機能単位としてオートファジーの機能低下がADの神経細胞では生じており、その背景にヒストン修飾変化による転写制御機構が存在することが示唆された。今年度は、これまでに得た神経細胞における疾患特異的なヒストン修飾変化が、神経細胞特異的な変化であるのかどうかに関して検討を行った。死後脳由来の非神経細胞核を用いて同様の解析を行った。結果、非神経細胞において疾患特異的なヒストン修飾変化がみられる領域を4箇所検出したが、それらは神経細胞を用いた解析の結果得られたゲノム領域(22箇所)とは異なるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ADにおける神経細胞特異的な発現制御機構を探索するため、まず、神経細胞を用いた網羅的ヒストン修飾解析を行った。ヒストン修飾の解析対象は遺伝子の発現と正の相関があることが知られるH3K4me3とした。死後脳からセルソーターを用いて神経細胞核を単離し、クロマチン免疫沈降法を用いて目的とするヒストン修飾が存在するゲノム領域を濃縮した。濃縮後、得られたゲノム断片を、次世代シーケンサを用いて解析し、ヒストン修飾の存在するゲノム領域とその修飾量とをAD群と正常群との2群間において比較検討した。結果、疾患特異的にヒストン修飾量が有意に変化しているゲノム領域を22箇所検出し得た。そこからは遺伝子の機能単位としてオートファジーの機能低下がADの神経細胞では生じており、その背景にヒストン修飾変化による転写制御機構が存在することが示唆された。この神経細胞におけるAD特異的なヒストン修飾変化が、神経細胞特異的な変化であるのかどうかに関して検討を行うために、剖検脳由来の非神経細胞核を用いて同様の解析を行った。非神経細胞のヒストン修飾情報解析の結果、有意な疾患特異的にヒストン修飾に変化を認めるゲノム領域を4箇所検出した。それらは神経細胞による解析の結果見出した22箇所とは異なるものであった。ヒストン修飾変化から発現変動が想定される4個の遺伝子のうち1個は既にその遺伝子変異が孤発性ADの発症リスクであると報告されているものであったが、残りの3個は新規にADの病態に関連した遺伝子として今回見出すことに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
死後脳由来の神経細胞核、非神経細胞核を分離し、それぞれにおいてヒストン修飾情報をゲノムワイドに解析した。その結果、疾患特異的なヒストン修飾変化が存在するゲノム領域は神経細胞を用いた解析から22箇所、非神経細胞を用いた解析から4箇所検出し得たが、それらに重複がなく、全て細胞種特異的なものであることが明らかとなった。これらのヒストン修飾変化やそこから想定される疾患特異的な発現変動遺伝子に関して、以下の3つの点から解析を進める予定である。まず、代表的な遺伝子に関して実際の死後脳を用いて発現解析およびin vitroでの機能解析を行う。具体的には脳をすりつぶしウエスタンブロット法を用いたタンパクの発現量をAD群と正常群とで比較すること、脳組織切片を用いて免疫染色を行い組織の染色性を検討比較すること、また培養細胞を用いて発現変動が生じた際の細胞の挙動に関して検討する予定である。次に、疾患特異的な変動が大きいと想定されるヒストン修飾領域やその領域に関連して発現変動が想定される遺伝子に関しての特徴がないか検討する。具体的には発現変動する遺伝子群がその遺伝子の機能単位で有意に変動する特徴を持つかどうか、ヒストン修飾の結合するモチーフにも疾患および細胞種特異的な傾向があるかどうかを解析する予定である。次に、今回の研究で得た知見は既存AD解析の知見と相違があるかどうかを検討する。この検討を行うことで細胞種毎に解析する意義をより見出せるものと想定している。以上の検討を進めた上で論文公表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度近くに支払いが発生したものがあり3月末までに会計が間に合わなかったものがあったこと。学会参加に伴う費用がコロナ感染拡大伴うオンライン化によりかからなくなったこと。翌年分の助成金と合わせ、発現変動解析、培養細胞を用いた解析研究に使用する予定でである。
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