アルツハイマー病の病態は、間質に蓄積するアミロイドβ、神経細胞内に蓄積するリン酸化タウが重要である。従って、神経細胞が変性していく過程を考える上で、神経細胞とそれ以外の細胞とでは異なった現象が起こっているはずであり、病態を理解するには神経細胞特異的な解析が必要である。このため、本研究ではアルツハイマー病の神経細胞核を特異的に取得し、ヒストン修飾の解析を行った。特に発現制御において重要と考えられる、H3K4me3およびH3K27acについて、ヒストン修飾をゲノムワイドに解析した。アルツハイマー病での異常を検出するため、アルツハイマー病と非疾患コントロールを比較するとともに、神経細胞で起きている現象を特異的に解析するため、非神経細胞についても同様の解析を行った。また、ヒストン修飾の異常が起きる領域のなかでも、生物学的な意義が高い領域を検出するため、ヒストン修飾のゲノムワイド解析を行う際に、クロマチン構造についても解析を行った。 本解析を行うことにより、合計で42領域のヒストン修飾異常を、アルツハイマー病特異的、神経細胞特異的に見出すことができた。このうち、14領域については他の全く異なった手法を用いた解析からアルツハイマー病と関連することが報告されており、本手法の妥当性を裏付けるものであった。また、他の28領域については、オートファジー関連遺伝子やDNA/RNA代謝に関する遺伝子群に関係したものであった。 神経細胞特異的ヒストン修飾解析により、アルツハイマー病のすでに知られている病態側面を確認することができたとともに、その病態理解を深めることができた。
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