研究課題/領域番号 |
20K22702
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
浅野 昂志 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 助教 (00884751)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 双極性障害 / 行動薬理学 |
研究実績の概要 |
双極性障害は、躁病相とうつ病相を繰り返す精神疾患である。これまでに躁うつ状態が同一の動物で観察された報告はほとんどなく、有用な動物モデルは存在しないとされてきた。しかし近年、大規模ゲノム解析技術の進歩により、双極性障害患者において、特定の遺伝子変異の関連が示唆されている。そこで本研究では、CRISPR/Cas9システムを用いて、双極性障害患者で変異のある遺伝子をgRNAに組み込んだAAVベクターをマウスの前頭前皮質に注入し、目的タンパクの発現量を脳部位特異的にノックダウンさせた。本マウスを用いて、各行動試験により躁状態およびうつ状態をそれぞれ評価した。 ベクター注入から4週間後、うつ状態の指標となるスクロースプリファレンス試験、尾懸垂試験、および強制水泳試験の各行動試験を行った。その結果、前頭前皮質特異的に目的タンパクの発現量が減少したマウスにおいて、うつ状態を示すことが明らかとなった。 一方、同様のマウスにおいて、躁状態の指標となるホームケージテストおよびランニングホイールテストを実施した。その結果、本マウスでは、躁状態も示すことが明らかとなった。 これらの結果から、前頭前皮質特異的に目的タンパクをノックダウンしたマウスでは、双極性障害にみられるうつ状態および躁状態の両方を示すことが明らかとなった。 したがって、本研究の最大の目的である双極性障害モデル動物の作成について、その根幹をなす重要な知見が得られたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究遂行上、必要な機器および実験ノウハウはすでに確立されていたことから、概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
モデル動物の作成は、概ね計画通りに遂行できたことから、続いて、本モデルの有用性について、詳細に検討を行う。 まず、目的タンパクの減少により、神経伝達物質にどのような影響が生じているのかを明らかとするため、目的タンパクを減少させたPC12細胞を用いて、ドパミンおよびセロトニンの細胞内への取り込みの変化について調べる。これは、核種により標識化されたドパミンおよびセロトニンの細胞内への取り込みを液体シンチレーションカウンターを用いて実施する。 また本モデル動物を用いて、既存の抗うつ薬および躁病治療薬を投与し、その反応性を各行動試験により検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の研究の実施にかかわるマウス前頭前皮質へのAAVベクターの注入および各行動試験には、すでに当研究室に保有している機器を用いたことから、研究遂行に必要なマウスの購入および消耗品の購入に限られていたことから、次年度使用額が生じた。 本年度は、in vitroの実験に用いる試薬等の購入、薬理学的検証のためのマウスおよび試薬の購入、そして本研究の成果を国際誌に掲載するための掲載費に充てる予定である。
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