研究課題/領域番号 |
20K22704
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
平岡 陽花 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (70880053)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | mRNA医薬 / 修飾核酸 / RNAイメージング / 翻訳 / 核酸デリバリー |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的である外来mRNAの翻訳過程の可視化を実現するに当たって、(A)蛍光ラベル核酸プローブによる配列選択的なRNAイメージング (B)当該プローブを効率的に細胞導入するための化学修飾付与 の2点に取り組んだ。 (A)について、まずは内在性mRNAを対象とした細胞内RNAイメージングの材料合成や条件検討を行なった。所属研究室の先行研究として、蛍光前駆体または活性化ユニットを付加した2本1組の核酸プローブを相補的なRNA配列に結合させることで配列選択的なRNAイメージングを実現していた。先行研究ではin vitroおよび大腸菌の実験系を用いていたのに対して、本研究では真核生物であるヒトHeLa細胞への適用を試みたが、現段階では十分なRNAシグナルが得られなかった。蛍光プローブと標的RNAの結合親和性が蛍光シグナルの発生効率に大きく関わってくるため、標的配列の選択が重要になると思われる。今後は配列検討あるいはイメージング手法の見直しを行う。 (B)について、修飾を付与した膜透過型核酸の合成および細胞内導入プロセスの観察を行なった。ジスルフィド結合と疎水性側鎖を含む修飾ユニットを5つ付加した膜透過型核酸が細胞内に導入される様子を経時的に観察し、僅か5分でHeLa細胞に導入されることを示した。エンドサイトーシスを介さず細胞質へ移行している様子が見られており、非常に迅速かつ直接的な細胞質への導入が可能となることが分かった。一方で、導入後の時間経過に伴い部分的な蛍光集積が見られており、ユニットを5つ連続させたことによる強い疎水性が、核酸同士あるいは内在性分子との望まぬ相互作用を招いている可能性も考えられた。現在は、先述の膜透過型核酸を用いたRNAイメージングプローブの導入を試みると同時に、少ないユニット数で同程度の膜透過性を示すよりよい構造の探索を並行して行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究のステップとして、①膜透過型の核酸プローブを利用した外来mRNAのイメージング ②外来mRNAの翻訳過程のイメージング ③ 翻訳機構の推定 の3つを予定していた。これまでに、ステップ①に関連して、ヒトHeLa細胞におけるRNAイメージングの試行と膜透過型核酸の導入プロセスの観察を行なった。 所属研究室の先行研究として、in vitroおよび大腸菌の実験系で配列選択的なRNAイメージングを実現していた。しかしこれをHeLa細胞に適用したところ、観察に十分な蛍光シグナルが得られなかった。この手法では、蛍光前駆体または活性化ユニットを持つ2本1組の核酸プローブが近接して標的RNAに結合する必要がある。数多くの内在性分子が存在するHeLa細胞内では、他分子との競合により核酸プローブと標的RNAの親和性が低下したために、蛍光前駆体から蛍光体への活性化が十分に起こらなかったと考えられる。現段階ではHeLa細胞における有効なRNAイメージングに至っていない。 化学修飾を付与した膜透過型核酸の観察については順調に進行している。ジスルフィド結合および疎水性側鎖を含む修飾ユニット5つを5’末端に付与した修飾核酸を、さらに蛍光ラベルして細胞への導入過程を観察したところ、添加から数秒で細胞膜へ蛍光が集積し、その後細胞質中の蛍光強度が上昇していく様子が見られた。その経時変化の解析から、約5分で50%の核酸が取り込まれる非常に迅速な細胞内導入を示すことが分かった。また、導入の様子からエンドソーム小胞等を介さず直接細胞質に導入されていると示唆された。これを用いることで、RNAイメージング用の核酸プローブを迅速かつ自発的に導入できると期待される。 以上のように、核酸プローブの導入手法を確立したものの、有効なRNAイメージングが可能な条件の検討が不十分であることから、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はステップ①のRNAイメージングの手法確立に向けて条件の最適化を行うと同時に、ステップ②の翻訳イメージングにも着手する。 ①について、まずは、遺伝子ノックダウンに関する研究を参考に、核酸プローブの配列検討を行う。アンチセンス核酸等の標的RNAへの結合を介したノックダウンにおいても核酸鎖の結合親和性は重要であり、ノックダウン効果の高い配列は結合親和性が高いと考えられる。当研究室で高いノックダウン効果を示している配列を用いてイメージングを試みる。それでも改善が見られない場合は、異なるイメージング手法として、蛍光前駆体の代わりに蛍光体を付加した核酸プローブを用いることも考えている。それによって2本の核酸プローブを近接させる必要がなくなるため、配列制限も緩和され、結合親和性の影響が軽減されると期待される。 核酸プローブを導入するための修飾構造についても、更なる改良を試みている。現行の膜透過型核酸の導入プロセスを観察する中で、添加から数時間後に細胞質内で部分的に集積しているケースが幾度か見られた。現在は修飾ユニットを5つ連続させた疎水性の高い構造になっており、それが核酸同士あるいは内在性分子との相互作用を引き起こしている可能性がある。より小さな修飾で高い膜透過性が得られるように構造の最適化にも取り組んでいく。 ②については、当初の予定通り、蛍光FLAG抗体と特異的に結合するペプチド配列の繰り返しが合成されるようにRNAを設計し、細胞内に導入する。このRNAが翻訳されペプチドの繰り返し配列が合成されると、蛍光FLAG抗体が結合して集積し、翻訳箇所で蛍光シグナルが検出される。まずは、抗FLAG繰り返し配列および蛍光タンパク質のコーディング領域を持つRNAを用いることで、両者の蛍光シグナルの共局在の有無から、標的RNAの翻訳の可視化が出来ていることを確認していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初はステップ②の翻訳イメージングに昨年度中に着手する予定であり、その実験系構築のために、蛍光FLAG抗体や抗体導入用のガラスビーズといった高額物品の購入予算を昨年度分として計上していた。しかし、HeLa細胞中でのRNAイメージングに思いがけず苦戦したことで、それらの物品を必要とする段階にまで至らなかった。昨年度取り組んでいたRNAイメージングについては、in vitroおよび大腸菌の系で既に確立されていた実験系をヒト細胞に適用するという形であり、必要な材料の多くが既に揃っていたため、消耗品類の追加購入が中心となった。翻訳イメージングは当初の実験計画に基づいて今年度実行予定なので、未使用の研究予算は、その実験系構築のために必要な物品の購入に用いる。 また、コロナ禍のため参加予定であった学会の全てがオンライン開催となったため、旅費として計上していた分が全て未使用となった。今年度は、少なくとも現時点では現地開催を予定している学会に申し込んでいるため、その旅費として用いる予定である。
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