心筋細胞は極めて増殖能が低いため、心臓が傷害を受けて心疾患に陥ると、修復されることなく不可逆的に症状が進行する。そのため、心疾患の根本的な治療を目指すためには心筋細胞の増殖を促進させる必要がある。一方、心筋細胞は絶えず血液を送り出すためのエネルギーを産生するためにミトコンドリアを豊富に含んでおり、ミトコンドリア選択的なオートファジーであるマイトファジーはミトコンドリアの品質を保つとともに心機能の保護にも働くことが知られている。そこで本研究では、マイトファジーが心筋細胞の増殖を誘導させるかについて明らかにするべく検討を行った。 培養した新生児ラット心筋細胞(NRCM)に、EF1αプロモーター下に遺伝子を強制発現させるレンチウイルスを用いて、マイトファジー促進因子PINK1を過剰発現させた。その結果、細胞周期マーカーであるKi67、AuroraB 、およびpHH3を発現するNRCMの割合が、コントロールであるLuciferase過剰発現群と比較して増加していた。またPINK1を過剰発現させたNRCMでは、コントロールと比較して、細胞増殖促進因子であるIGF2 mRNA、および心筋細胞の幼若性の指標であるMyh7/Myh6比の増加が認められた。さらに心筋トロポニンプロモーター下に遺伝子を強制発現させる、心筋特異的レンチウイルスを作製して検討を行った。その結果、やはりPINK1の過剰発現はKi67陽性NRCM割合を増加させた。 本研究の結果より、マイトファジーの促進因子が心筋細胞の増殖を増加させる可能性が示された。今後、PINK1による心筋細胞増殖メカニズムの解明を行う予定である。
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