本研究では、S6Kを調節するAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)シグナルに着目し、DIF-1のターゲット分子を同定することを目的としている。
ヒト乳がん細胞株MCF-7細胞とマウストリプルネガティブ乳がん細胞株4T1-Luc細胞を用いた実験で、DIF-1は1.細胞増殖を抑制する、2.遊走・浸潤を阻害する、ことが明らかとなった。そのメカニズムとして、1.mTORの基質であ るS6Kを抑制することで、STAT3蛋白質合成阻害した結果、cyclin D1を減少させ乳がん細胞の増殖を抑制する、2.mTOR/S6K抑制を介してがん遠隔転移に重要なSnailの蛋白質発現を減少させることで、乳がん細胞の遊走・浸潤を阻害する、ことが明らかとなった。さらに、DIF-1はAMPKの活性化し、活性化されたAMPKがRaptorを不活性化することによってmTORC1の活性を抑制することが示され、1.2.の現象は、共通シグナル伝達経路であるAMPK-mTORC1システムを介していることを見出した。
この研究により、DIF-1は添加後数分以内にAMPKを活性化することがわかったが、DIF-1が結合する直接の標的分子(受容体)はまだ特定されていない。しかし、DIF-1がMDH2に結合し、その活性を阻害すること、MDH2の阻害がAMPKを活性化することが報告されており、今後研究を進め、MDH2がDIF-1の薬理学的標的分子(受容体)である場合、臨床使用のためにDIF-1を最適化することにより、新しい作用機序を持つ抗がん剤を開発することができる。
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