研究実績の概要 |
がん細胞では糖鎖の特異的付加や構造変化(不均一性変化)が生じており,この現象は,細胞極性の喪失をはじめ,がんの発生に直接関与すると指摘されている.糖鎖にはN-型とO-型がある.これまで,微量組織検体上のO-型糖鎖の解析は極めて困難であり,がん特異的O-型糖鎖の探索は容易ではなかった.本研究では、大腸がん組織検体における “O-型糖ペプチド抗原”を同定し、抗悪性腫瘍治療薬としての抗体薬品の標的分子候補や病理診断マーカー候補を提供することを目指している。昨年度までに、大腸がん凍結組織検体に由来する腫瘍部および非腫瘍部から、一部のO-型糖鎖認識レクチンのシグナル強度が腫瘍部で増加していることが明らかにした。そして、このO-型糖鎖認識レクチンにより捕集された画分を用いたグライコプロテオミクスにより、一部の膜関連O-型糖タンパク質が腫瘍部でのみ同定されることを見出した。 本年度は、従来のDDA(データ依存型取得)法に比べ、定量性と網羅性に優れたDIA(データ非依存型取得)法を用いた定量O-グライコプロテオミクス/プロテオミクスを実施した。糖ペプチドスペクトルライブラリは、大腸がんや膵がんの組織及び血清から得られた3,000を超えるO-型グリコフォームを含むin houseデータベースを用いた。腫瘍部および非腫瘍部間による比較定量解析により、腫瘍部で有意な増加を認めたO-型グリコフォーム/O-型糖タンパク質を同定し、リスト化することに成功した。一方、DIAプロテオミクスより、3,300を超える遺伝子にコードされるタンパク質の比較定量解析に成功した。
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