様々な疾患の発症メカニズムにおいて、ヒストンの翻訳後修飾をはじめとしたエピジェネティックな転写制御機構が注目されている。我々はこれまでに、心肥大期から心不全期にヒストンのアセチル化修飾部位が変化すること、この変化においてクロマチンリモデリング因子のBRG1とヒストンアセチル化酵素であるp300との結合が増加することを見出した。しかし、ヒストンのアセチル化におけるBRG1の詳細な役割については検討されていない。本研究では、心不全発症時におけるBRG1によるヒストンのアセチル化修飾部位の変化を介したエピジェネティックな転写制御機構の解明を目的とした。 BRG1阻害剤が心筋細胞肥大を抑制するかどうか培養心筋細胞を用いて検討した。ラット初代心筋細胞にBRG1阻害剤を処理し、フェニレフリン(PE)により心筋細胞肥大を誘導した。PE刺激は有意に心筋細胞を肥大させたが、BRG1阻害剤はPE刺激による心筋細胞の肥大を有意に抑制した。ウエスタンブロット法によりBRG1阻害剤がPE刺激によるヒストンのアセチル化の増加を抑制した。次に、BRG1阻害剤が心不全の進展を改善させるかどうか心不全モデルマウスで検討した。雄性C57BL/6Jマウスに大動脈縮窄術(TAC手術)を施し、心不全を誘導した。TAC手術後に浸透圧ポンプを用いてBRG1阻害剤の投与を行った。TAC手術によりvehicle群では左室後壁厚の肥厚並びに左室内径短縮率の低下、心体重比が増加した。一方、BRG1阻害剤投与群ではTAC手術による左室後壁厚の肥厚並びに左室内径短縮率の低下、心体重比の増加が改善された。 αMHC-MerCreMerマウスとBRG1f/fマウスを交配させ、心臓特異的にBRG1をノックアウトしたマウスを作成した。タモキシフェンの投与によりBRG1のノックアウトを確認した。TAC手術を施したマウスの解析にまでは至っていない。
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