本研究では、プロスタグランジン膜輸送体SLCO2A1の細胞内局在を制御する因子の同定を目的に研究を実施した。これまでの検討により、翻訳後修飾であるN型糖鎖修飾がSLCO2A1の細胞内局在の調節因子の一つであることを示唆する結果を得た。具体的には、野生型SLCO2A1発現HEK293細胞においてSLCO2A1のN134、N478、およびN491にN型糖鎖が結合していることを明らかにし、各アスパラギン残基 (N) をグルタミン(Q)に変異させた三重変異体発現HEK293細胞では、SLCO2A1基質である6-carboxyfluoresceinの取込み量が野生型に比べて顕著に低下することを見出した。最終年度は、N型糖鎖がSLCO2A1の輸送機能や細胞内局在に及ぼす影響をより詳細に検討した。糖鎖修飾酵素阻害薬であるtunicamycinの処置により、野生型SLCO2A1発現HEK293細胞においてSLCO2A1の分子サイズの低下と同時にPGE2取込み活性の低下が観察された。これと一致して、三重変異体では野生型に比べてPGE2取込み最大速度が顕著に抑制され、一方でPGE2に対する親和性はほとんど変化しないことを見出した。三重変異および野生型SLCO2A1の細胞全体におけるタンパク質発現量に有意な差は無かったが、細胞膜画分における発現量は野生型に比べ三重変異体で約20%近くまで減少していた。また、N型糖鎖修飾はHEK293だけでなく、ヒト肝癌由来HepG2、およびヒト肺胞基底上皮腺癌由来A549細胞等にSLCO2A1を強制発現させた際にも観察された。以上の結果より、N型糖鎖はSLCO2A1の細胞内局在制御因子の一つであることが示された。
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