研究課題/領域番号 |
20K22720
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
加藤 翔 北里大学, 大村智記念研究所, 特任助教 (70875757)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 二次代謝産物 / 糸状菌 / ケミカルバイオロジー / 抗生物質 / 天然物 |
研究実績の概要 |
本申請では申請者が確立したタンパク質合成阻害剤ハイグロマイシンBによる遺伝子発現レベルでの二次代謝産物生産誘導を応用することを計画した。ハイグロマイシンBが有効性を示す糸状菌の範囲を解明し、代謝物分析や生物活性評価によって新規化合物を同定し、遺伝子発現解析による二次代謝生合成遺伝子の同定を目標とする。そこで、本申請では①ハイグロマイシンBが化合物生産に与える有効性を示す糸状菌の探索、②機器分析や生物活性を指標とした新規二次代謝産物のスクリーニング、③生産する二次代謝産物の生合成に関与する遺伝子の同定を目的に、生物活性を有する新規二次代謝産物の取得を目指す。 ①については当研究室が保有する糸状菌ライブラリーから分離源の異なる糸状菌400株に対してハイグロマイシンB処理と未処理の条件で培養し外見と代謝物の変化を解析した。その結果、門レベルで異なる生物種に対して効果を示した。 ハイグロマイシンB処理による形態変化や色調変化が観察されたものは76.7%、hygromycinB処理により変化が観察されなかったものは8.9%、評価できないものは15.4%となった。ハイグロマイシンB処理によって形態や色調の変化する株は子嚢菌門、担子菌門、ケカビ門の株において共通していることが明らかとなった。子嚢菌門は綱レベルで幅広く色調の変化や形態変化が観察された。担子菌門の菌類FKI-10297(Vanrija pseudolonga)は未処理では赤色であるが、ハイグロマイシンB存在下では暗赤色になる。また、ケカビ亜門のFKI-10298(Mortierella humilis)は未処理では灰色だが、ハイグロマイシンB存在下では赤色となる。これらの結果から、ハイグロマイシンB処理による二次代謝産物の生産誘導が門レベルで広範囲の真菌に共通して起きることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記の区分となった理由は3つある。 ①初年度に糸状菌におけるハイグロマイシンBが二次代謝活性化を示す濃度を検討することで、おおむね10 μg/mLであることを見出すことが出来た。これにより、大量のサンプルを処理した際の有効性検証がスムーズに行うことが出来た。以前は300 μg/mLで有効性を示していたが、株や培養条件によってハイグロマイシンBの感受性が異なることから多すぎることに気づくことが出来なかった。 ②有効性検証に用いた菌株の生育が良く、門レベルで異なる糸状菌が含まれており保存状態も良かった。そのため、糸状菌培養では生育の示さなかった株が5%以下と極めて少なく微生物培養に供しても時間のロスが少なかった。きわめて広範囲の分類を対象とした倍規模な評価は今までの研究で行われてきたことはなく、本研究によりハイグロマイシンBの二次代謝活性化の能力が糸状菌に広く保存されており共通した反応であることが示唆されたことは、糸状菌の二次代謝活性化に関する研究でインパクトのある重要な知見である。 ③糸状菌の見た目が非常に変化しやすく容易に評価が出来た。多くの菌株がハイグロマイシンB添加により赤、橙、黄、緑、灰、黒色に呈色し、バラエティーに富んだ変化が観察された。糸状菌の生産する色素は二次代謝産物であることが知られているため、培養液の色調変化を比較することで二次代謝産物生産性の向上を迅速に判断できた。また代謝物の分析では、最近導入されたUPLC(超高性能液体クロマトグラフィー)により1サンプル当たり5分で分析できるようになったことで、ハイスループットに評価することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
ハイグロマイシンB処理による二次代謝産物の変化を解析した結果、75%に形態や色調変化を及ぼしたことが明らかとなった。その効果の門レベルで共通して起きるイベントであり、子嚢菌では綱を跨いで共通しているが、中でも寄生菌類を中心に株ごとの薬剤感受性の違いもあり効果を示さないものが存在することが示唆された。 ハイグロマイシンBはタンパク質合成阻害剤であり真核生物のリボソームに結合することで生育を阻害する。先行研究では、300 μg/mLにおいて同様の効果が観察されたが、本研究では10 μg/mLにおいても広範囲の糸状菌に対して十分に効果が確認できることが明らかとなった。今後変化のあった株についてはUPLC分析によりクロマトグラムの変化を観察する予定である。 現在までの結果から、分類上幅広い糸状菌に対して代謝物の生産を変化させることが明らかとなった。そこで新規二次代謝産物を取得するために化合物生産報告のない種あるいは属の菌株に対して、ハイグロマイシンB処理によって代謝物の生産が変化するものを選別し二次代謝産物の同定を試みる。すでに4株に対して培養を行っており、代謝物の分析結果から有望な候補代謝物を見出している。 対象の菌株のゲノム解読にはMinIONシーケンサーを用いる予定である。また、ハイグロマイシンB処理と未処理の菌体における全遺伝子の発現を比較することで生合成遺伝子クラスターを推定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は新型コロナウイルスの影響により、学会出張がなくなりその分の経費を使い切ることがなく次年度へ持ち越しとした。 次年度には化合物精製に必要な有機溶媒の使用量が多くなる予定なので、持ち越した分を使用する予定である。
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