研究課題/領域番号 |
20K22727
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研究機関 | 岐阜医療科学大学 |
研究代表者 |
深谷 匡 岐阜医療科学大学, 薬学部, 助教 (70880417)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | メロテルペノイド / Eucalyptus / フトモモ科 |
研究実績の概要 |
がんは,異常な細胞増殖を引き起こし,他の臓器に浸潤や転移をする治療満足度が低い疾患の一つである.現在臨床では,タキサン系,ビンカアルカロイド,カンプトテシン,ポドフィロトキシン,ドキソルビシンをはじめとする天然物由来の抗がん剤は広く用いられているが,連用によって抗がん剤に対して耐性を有する腫瘍細胞株の出現が大きな問題となっている.腫瘍細胞の薬剤耐性獲得は,P-糖タンパク質の過剰発現や特定の遺伝子の変異の関与等によるものである.その中でも,P-糖タンパク質 (P-gp, ABCB1, MDR1) は,腸や肺,近位尿細管,血液脳関門の毛細血管内皮細胞等に発現する ABC (ATP Binding Cassette) トランスポーターの一種で,薬物の排泄に関与するため,その過剰発現は抗腫瘍薬の感受性の著しい低下を引き起こすことが知られている.そのため, 難治性のがんに対する治療薬の開発は喫緊の課題である.よって,本課題では薬剤抵抗性株に対し細胞毒性を示す化合物やP-糖タンパク質を阻害する化合物の探索に焦点を絞る. そこでテルペノイド類が含有される Eucalyptus 属植物などに着目した.すなわち銀丸葉ユーカリ(E. cinerea)などの Eucalyptus 属植物をクロロホルムを用いて室温条件下において冷浸抽出し,クロロホルム抽出エキスを調製し, HPLC-Q-ToF-MSによってを研究素材とすることとした.そのクロロホルム抽出エキスを酢酸エチル,水を用いて液液分配を行い,酢酸エチル分画を得た.その酢酸エチル分画を順相,逆相カラムクロマトグラフィー,ゲル濾過クロマトグラフィー,および高速液体クロマトグラフィーを用いて繰り返し行い単離精製を行う.それらの化合物を NMR や CD スペクトルの解析によって構造を解析した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フトモモ科植物銀丸葉ユーカリ (Eucalyptus cinerea) 葉部のクロロホルム抽出エキスより,フロログルシノールにテルペノイドが結合したメロテルペノイド類をはじめとする計 25 種類の化合物を単離した.このうち,2 種類の化合物が新規化合物として得られ,一次元 NMR および 2 次元 NMR (HMQC, HMBCおよびDQF-COSY) の詳細な解析により,平面構造を得たのちに NOESY 相関を観測することでこれらの相対立体配置を決定した.また,新規化合物の絶対立体配置を円偏光二色性スペクトルの測定値と計算で求めた予測値との比較および、過去の文献における経験的解釈を併せて絶対立体配置を決定した.加えて,他 3 種類の化合物については,これまでに化合物の報告はされてきたが,一部立体配置が決定しておらず,また,相対立体配置のみの決定であったことから,前述の新規化合物と同様の手法を用いてその絶対立体配置を含めた立体構造の決定を行った. 加えて,同じくフトモモ科植物のグアバ (Psidium guajava) よりフロログルシノールとテルペノイドの付加体やその類似化合物が報告されていることから,ユーカリと同じフトモモ科植物のギンバイカ (Myrtus communis),チョウジ(Syzygium aromaticum),レモンマートル(Backhousia citriodora),オールスパイス(Pimenta dioica)などについて検討する予定であり,ギンバイカ果実やグアバ果実に関しては銀丸葉ユーカリと同様にクロロホルム抽出エキスを作成して,並行して成分探索を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き,HPLC-Q-ToF-MSおよび生物活性評価の結果を基に成分の分画を進める.Eucalyptusに加えてフトモモ科植物に関しても得られた抽出エキスについて各溶媒を用いて,分液分画を行った後に,順相および逆相クロマトグラフィーに付し複数の分画に分離する.その際,随時HPLC-Q-ToF-MSを用いたMS/MS測定および,生物活性評価を組み合わせることで,主要成分から微量成分まで幅広くターゲット分子を追跡し,単離・精製の指標とする.それらの分画を分取HPLC に付すことで,ターゲット分子を単離・精製する.それらの化学構造は,核磁気共鳴装置 (NMR) やMSを用いて決定する.構造解析においては絶対立体配置を含めた化学構造の解明を目指し,各種二次元 NMR のデータ解析や質量分析におけるフラグメント解析,円偏光二色性 (CD) 測定で得られるコットン効果の考察,単結晶 X 線構造解析といった多様な物理化学的手法を駆使する.また,改良モッシャー法や既知化合物への誘導化等の化学的手法も適宜組み合わせる. 評価系としてヒト慢性骨髄性白血病細胞由来細胞 K562 を用いた細胞毒性評価を行う.毒性が見出された化合物 について,さらにP-gp発現型アドリアマイシン抵抗性株 K562/Adr,および,ビンクリスチン抵抗性株 K562/Vin を用いて細胞毒性を評価する.具体的には,K562細胞での IC50 値と K562/Adr 細胞および K562/Vin 細胞での IC50 値から Degree of Resistance (DR) を求め,化合物が各種細胞に対して交差耐性 (DR>2.0),もしくは,二次的な作用 (DR<0.5) を有するか検討する.加えて,得られた化合物やその化学誘導体を用いて,構造活性相関についても検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額として1,025,010円が計上されているが、その内800,000円(概算)は細胞保存用の凍結チューブなどを購入した.しかし一部物品の納入が遅延しており、未精算となっていることから次年度に繰り越す.残額の200,000円(概算)に関しては,生物活性評価を行う際の細胞培養培地や試薬、その他細胞培養フラスコ等の消耗品を購入する予定である.
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