研究課題/領域番号 |
20K22728
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
篠田 知恵 (坪井知恵) 愛知学院大学, 薬学部, 助教 (70736355)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / プレクリニカル / 脂肪酸 / ミクログリア / 核内受容体 |
研究実績の概要 |
脂質異常症はアルツハイマー症(AD)発症の危険因子である。加齢やストレスに起因する中枢のミクログリアの活性化による炎症反応がAD発症を誘発すると考えられるようになってきたことから、「脂質代謝の変調」による「ミクログリアの活性化」がAD発症に先駆するのではないかと考えた。 ミクログリア細胞株としてMG5とBV2細胞を用いて実験した。脂質代謝の変調として、飽和脂肪酸であるパルミチン酸(PA)200 μMを用い、炎症性サイトカインであるTNFα mRNAレベルを調べたところ、8時間のPA刺激でTNFαのmRNAレベルのピークが認められた。また、同様に過酸化脂質である4-ヒドロキシノネニナールおよびメチルグリオキサールを用いたところ変化は認められなかった。以上の結果より、脂質代謝の変調としてパルミチン酸がミクログリア細胞株に対し炎症反応を惹起させることが分かり、その条件を確立することができた。この条件で各種mRNAレベルを調べたところ、IL-1β、TNFα、COX2、IL-6の上昇、脂質代謝関連因子ABCA1の抑制がみられた。また、核内受容体アゴニストによる抗炎症作用を調べたところ、TNFα mRNAはRAR、LXRアゴニストで抑制傾向が、RXRアゴニストで有意に抑制された。以上の結果より、PA誘導による炎症反応はRXRを介して抑制される可能性が推察される。 今後は、RXRの抗炎症作用だけでなく脂質代謝関連因子の発現、オートファジーへの作用も調べ、活性型ミクログリアに対する天然由来核内受容体アゴニストを用いた機能改善効果の検討を試みる。本研究から得られる成果によって、脂質代謝という新たなパラメーターからADのプレクリニカル期の脳内炎症発症機序に対する理解が大きく進み、AD予防に対する新しいアプローチ法と副作用のない新しい核内受容体アゴニスト治療薬の発見に繋がることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミクログリアの細胞株としてMG5とBV2を用いた。脂質代謝の変調として、体内分布の最も多い飽和脂肪酸であるパルミチン酸(PA)を用い細胞に添加した。200μMまでの濃度では濃度依存的にTNFα mRNAレベルが上がり、そのピークは添加8時間後だった。200μM以上で細胞毒性が確認された為、PAによる細胞刺激は200μMで8時間の条件で行うこととした。また、PAの刺激に対してTNFαmRNAレベルの上昇はMG5に比べBV2の方が大きかった為、今後の実験ではBV2細胞を用いることとした。また、脂質の変調として、過酸化脂質である4-ヒドロキシノネニナール、メチルグリオキサールを添加後8、24時間培養した後にTNFαmRNAレベルを調べたところ、変化は認められなかった。以上の結果より、脂質代謝の変調としてPAがBV2細胞に対し炎症反応を惹起させることが分かり、その条件を確立することができた。 PAで8時間刺激後、炎症マーカーのmRNAレベルを調べたところ、IL-1β、TNFα、COX2、IL-6のmRNAレベルの上昇が確認できた。一方で、脂質代謝関連因子であるABCA1 mRNAレベルは抑制が、ApoE mRNAレベルは変化が認められなかった。このことから、PAによって炎症が惹起され、細胞内の脂質代謝に何らかの影響を与えていることが推察される。 次に、核内受容体アゴニストによる抗炎症作用を調べた。RXR、RAR、LXR、PPARγ、PPARδの合成アゴニストを用いた。各アゴニストを16時間前処理しPA添加8時間後のTNFαmRNAレベルを調べたところ、RAR、LXRアゴニストで抑制傾向が、RXRアゴニストで有意に抑制された。 本研究課題で明らかにしようと計画していた3つ実験計画のうち、半分程度2020年度に進められた。したがって、予定の計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
BV2細胞を用いて以下の実験を行う。 <1>PA誘導細胞内炎症に対する核内受容体アゴニストによる改善効果を調べる。:各アゴニストの抗炎症作用が認められる条件検討を更に詳しく実施する。16時間前処理だけでなく、同時添加も行い抗炎症作用だけでなく脂質代謝関連因子のmRNA・タンパク質に及ぼす効果を明らかにする。また、PPARα、PPARγそしてRORアゴニストについても同様に調べる。 <2>PA誘導による貪食能やオートファジーの変化を調べる:PA添加によって貪食能ならびにオートファジーにどのような影響があるのかを蛍光測定法、FACS、ならびにmRNAレベルを調べることで評価する。 <3>1の結果、核内受容体アゴニストを介した抗炎症作用のメカニズムを調べる。:RXRアゴニストの前処理によって抗炎症効果が認められている。この細胞保護効果がPA誘導による炎症反応のどの段階に働きかけるのかを検討する。 <4>天然由来核内受容体アゴニストの探索:今までに、天然由来RXRアゴニストとして単離精製したプレニルフラバノンSPF1と2が、神経細胞様PC12細胞の抗炎症作用を示すと共に、ABCA1発現を増加させAβによる神経毒性を抑制している可能性を報告してきた。これらの知見より、天然由来アゴニストはABCA1発現増加作用及び脂質代謝の改善に働く可能性があり、活性化ミクログリアに対する天然由来核内受容体アゴニストを用いた機能改善効果の検討を試みると共に、生薬成分からの新規天然由来核内受容体アゴニストの探索も試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言」に伴い日本学術振興会への申請書提出期限が1ヶ月延長となっただけでなく、交付決定の遅延もあり入金が11月半ば、そして使用可能となったのが同月末となり、予定よりも半年以上遅れていた。また、同理由で学内出入りの制限があっただけでなく、物流の制限もあったことから消耗品購入に制限がかかったこと、そして新型コロナウイルス感染防止の為に学会が全てオンライン化したことによって国内旅費の必要がなくなったことから、使用額が計画より減少する結果となった。 今年度は昨年度に購入できなかったコレステロール蛍光色素や脂質代謝関連タンパク質、ならびにAD関連タンパク質に対する抗体や蛍光免疫染色に必要な試薬や二次抗体の購入をする。また更に、オートファジー、リソソームでの脂質の分解を調べる為の試薬の購入もするだけでなく、ミクログリア以外の神経細胞の購入も検討していきたい。
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