研究実績の概要 |
近年、Na,Kポンプ阻害薬は細胞質のイオン濃度に影響を与えない低濃度において複数種のウイルスの取り込みを抑制することが報告されている。これらの報告はSrcシグナルでその現象を説明しているものの、Srcシグナルがウイルスの取り込みに与える影響については一致した見解が得られていない。すなわち、Na,K-ATPaseがどういったメカニズムでエンドサイトーシスを制御するのかについては大いに議論の余地がある。 当研究室では、Ras-phosphoinositide 3-kinase (PI3K)複合体がエンドソームに局在することでエンドサイトーシスを制御することを報告し、局在制御の候補因子としてNa,K-ATPaseのβ1サブユニットを同定した。本研究では、β1サブユニットによるRas-PI3Kシグナル伝達の時空間的制御という観点から、Na,K-ATPaseによるエンドサイトーシス制御機構を解明する。 本年度はβ1サブユニット発現量の異なる複数の細胞株において上皮成長因子刺激時のRas-PI3K複合体のエンドソーム移行を検証し、β1サブユニット発現量とRas-PI3K複合体のエンドソーム局在の間に負の相関があることを確かめた。また、細胞質のイオン濃度に影響を与えない低濃度のポンプ阻害薬は、デキストランの取り込みを亢進させるのみならず、上皮成長因子刺激時のRas-PI3K複合体のエンドソーム局在を促進することが明らかとなった。Na,Kポンプ阻害薬はnMオーダーの低濃度で用いた場合、エンドソームに局在したNa,K-ATPaseを阻害するとの知見があり、本研究で得られたデータはエンドソーム上のNa,K-ATPaseがポンプ能を介してエンドサイトーシスを制御することを示唆するものである。
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