体外受精・胚移植で良好胚を移植しても妊娠しない着床障害の治療はこれまで診断・治療法が全く提案されておらず、胚の受け手の子宮は未だブラックボックスである。着床は、①胚の子宮内膜管腔上皮への対位(胚対位)、②胚の子宮内膜管腔上皮への接着(胚接着)、③胚の子宮内膜間質への浸潤(胚浸潤)という3つの一連の過程で定義される。加えて、こうした胚の動きと共に、受精卵接着部位周辺の子宮内膜では脱落膜化と呼ばれる間質細胞の分化が生じる。申請者所属先では最近、子宮特異的Hif2αノックアウトマウス(Hif2α-uKOマウス)は不妊であり、その原因として、着床直後での子宮内膜への胚浸潤が異常であることを組織学的観察から見出している。Hif2aは主に核内で機能することを踏まえると、何らかの分泌型因子がHif2aの下流で発現誘導されることが予測された。下流因子の探索を行ったところ、ECM分解酵素群の発現異常がHif2α-uKOマウスで認められた。現在までに一部の下流分子について子宮特異的KOマウスの作製を完了しており、妊孕能の低下も認めている。Hif2a uKOと同様胚浸潤に寄与しているか、詳細を解析中である。また、着床過程の解析に関連して、子宮上皮特異的Pgr KOマウス、Stat3 KOマウスの胚接着への寄与を明らかにし、それぞれEndocrinology及びScientific Reportsに論文発表した。また、増殖制御に関わる核内因子の一つ、Rb1を子宮特異的にKOすると、Hif2α-uKOマウスと極めて類似した胚浸潤の異常が認められることも論文報告した。Hif2α、Pgr、Stat3及びRb1はいずれも核内で転写因子として機能するという共通点を有することから、今後これら分子が相互作用するかを探索していく予定である。
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