ヒト胎児の横隔膜及び、腹壁を構成する腹直筋と錐体筋がどのように発生・成長するかについて十分な解析は行われていない。本検討は胎児期初期における横隔膜及び腹直筋と錐体筋の形成過程の特徴を明らかにすることを目的とした。京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センター保有のCarnegie stage[CS]16~23のヒト胚子15例(頭殿長[CRL] 8-26mm)、及び島根大学医学部解剖学講座保有のヒト胎児標本(CRL 34-88mm)20例を対象として、7TMRIを用いてT1強調画像(T1W)、拡散テンソル画像(DTI)の撮像を行い、三次元再構成像及びTractographyを作成した。作成データから形態観察と筋線維、膠原線維走行の可視化を検討した。横隔膜はCS20で完全に閉鎖した。横隔膜の高さは胚子期には第4-6胸椎間にあり、胎児期になると第6-8胸椎間にみられた。CRL46mm以降、腰椎部の右脚と左脚の形成が顕著であった。Tractographyの観察から、CRL46mm以降、内側中央部のFractional anisotropy値は減少し、胸骨部、肋骨部、腰椎部の線維走行が明瞭に区別できた。食道裂孔周囲における右脚、左脚線維の走行パターンは3種類に分類できた。 腹直筋、錐体筋の解析はヒト胎児標本14体(CRL34~88mm)を対象とした。腹直筋は胎児の成長に伴い、左右方向よりも頭尾方向の長さの成長が顕著に観察できた。14体のうち錐体筋が観察されたのは10体であった。錐体筋の有無による腹直筋形態の違いは見られなかった。T1Wでは検出困難であった腱画をTractographyでは検出できたが、腱画の位置や形態には個体差がみられた。本研究から得られた、横隔膜、腹直筋、錐体筋の正常な形成過程に関する新たな知見は、発生学や先天異常学に寄与すると考えられる。
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