研究課題
本研究は、新規RNA修飾機構の鉄代謝において果たす役割の解明を目的としている。本年度は、鉄代謝制御因子を同定するためのCRISPRスクリーニングにより同定されたRNA修飾酵素METT10Dについて解析を進めた。まず、METT10Dの各細胞における発現を検討したところ、赤芽球において比較的発現が高く、分化に伴い発現が動的に調節されることを見出した。鉄代謝の調節機構は、特に赤血球造血におけるヘモグロビン産生において重要な役割を果たすことが知られていることから、赤芽球の鉄代謝においてMETT10Dの果たす役割を検討した。この目的のため、当該遺伝子のFloxマウスを作出し、これと赤芽球特異的なCreマウスを交配させることで、赤芽球特異的に当該遺伝子を欠損したマウスを作出し解析を実施した。この結果、赤芽球において特異的にMETT10Dを欠損したマウスは、胎生期13.5日目までに著明な造血障害が起こり全例胎生致死に至ることを見出した。次に、胎生期11.5日目においてこのマウスの赤芽球の各分化段階の細胞をセルソーターにより単離しRNA-seq解析を行ったところ、赤芽球において鉄代謝に関連する因子(TfR1、Steap3など)の発現が低下していることを見出した。また赤芽球に必須の複数の転写因子の発現も低下していることが明らかとなった。これらの結果から、METT10Dを欠損した赤芽球においては鉄代謝に異常が生じていることが示唆された。また、METT10Dは赤芽球における鉄代謝を制御するのみならず、赤芽球分化制御においても役割を果たす可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
METT10Dが当初のスクリーニングの結果と同様に鉄代謝制御分子であるTfR1の発現を制御することを生体において確認できた。また、赤芽球特異的METT10D欠損マウスを作出および解析し、このマウスにおける造血異常、鉄代謝関連分子の発現低下を明らかにすることができた。
今後はMETT10DのRNA修飾の標的を検討するため、MeRIP-seq解析を実施することにより、赤芽球における鉄代謝調節につながる分子機構を解析する予定である。
コロナ禍のため、当初実施する予定であった共同研究打ち合わせ、およびこれに付随する実験が実施できなかった。次年度移動制限が解除された際に当初予定通り実施を進める予定であり、使用計画に大きな変更はない。
すべて 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
European Respiratory Journal
巻: 57 ページ: 2000018~2000018
10.1183/13993003.00018-2020
Trends in Cancer Immunology
巻: 3 ページ: 3~5