研究課題/領域番号 |
20K22745
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
坂入 伯駿 順天堂大学, 医学部, 助教 (20876693)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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キーワード | 異種GPCR間相互作用 / 運動学習 / LTD(長期抑圧) / 1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1) / GAGA-B受容体(GBR) |
研究実績の概要 |
小脳運動学習における神経細胞レベルの基礎であるプルキンエ細胞の長期抑圧(LTD)は、1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)の活性化により生じる。近年、mGluR1が発現するシナプス上にGABA-B受容体(GBR)が共発現してLTDを増強すると明らかになったが、増強機序は未解明だった。申請者はmGluR1とGBRが結合すること、また両受容体の細胞内シグナルが双方向に調節されることを発見し、さらに受容体間の結合状態と受容体機能が連動して変化する可能性を見出した。これを踏まえ、本研究では「mGluR1とGBRの結合状態の変化がmGluR1の細胞内シグナルを制御してLTDを増強する」という仮説の実証を目指すこととし、mGluR1とGBR間の結合状態変化によるmGluR1細胞内シグナル伝達の調節、及びそれによるmGluR1依存性LTD増強機構の解明を本研究の目的とした。 計画としては、まずHEK細胞株を用いてmGluR1とGBRの結合変化とシグナル変化とが連動することの証明、及び介入方法を確立する。その後に、マウス小脳の初代培養プルキンエ細胞を用いて新規開発した介入方法の受容体間結合及びmGluR1シグナル機能増強に対する作用を評価する。また並行してパッチクランプ法によるプルキンエ細胞の電位変化測定の導入を進め、GBRによるmGluR1依存性LTD増強作用が受容体間結合への介入により変化することを電気生理学的に示す。以上により「mGluR1とGBRの結合状態の変化がmGluR1の細胞内シグナルを制御してLTDを増強する」という仮説を証明する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、HEK細胞を用いてmGluR1とGBRの結合とシグナルの解析を行った。結合については、mGluR1と構造が類似する他のGPCRを用いてGBRとの結合を評価したところ、一部のGPCRにおいてGBRとの結合能がmGluR1に比して大きく異なるものが発見された。このGPCRは、mGluR1とGBRの結合とシグナル変化を解析する上での重要なネガティブコントロールとなり得る可能性があり、現在さらに詳細な解析を進めている。シグナル解析においては、バキュロウイルス発現系を利用したセカンドメッセンジャーの蛍光イメージングアッセイを新たに導入してGq、Gi共役型GPCRの効率的かつ詳細なシグナル解析が可能となり、特にGiシグナルについてはHEK細胞のみならず初代培養神経細胞においてもシグナルの観察に成功している。更にこれらの技術を用いて、mGluR1やGBRと同様にGq、Gi共役型GPCRが結合する組み合わせであるエンドセリンA受容体とミューオピオイド受容体の解析を行い共著論文として発表した。加えて、ミューオピオイド受容体の解析を通じて痒みにおけるエンドモルフィンの新たな作用を解明し、こちらも共著論文として発表した。 一方で解析を進めていく中で、mGluR1とGBRの結合を明確に評価するには、ネガティブコントロールとなるGPCRを発現するHEK細胞株も含め新たなモデル細胞株の樹立が必要と判断し、現在細胞株作成を進めている。また、COVID19や社会情勢不安により、研究に必要な試薬やプラスチック器具等の生産・流通に大幅な遅れが生じ、特に初代培養プルキンエ細胞を用いた解析が十分に進められていない。 総じて、モデル細胞株における解析は当初の計画以上の成果が得られている一方、神経細胞への応用についてはやや滞っている。
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今後の研究の推進方策 |
新たな細胞株を樹立次第、新たに発見したネガティブコントロールとの比較をしながら結合とシグナル変化を評価する。評価にはバキュロウイルス等のこれまで確立したアッセイに加えて、1分子イメージング等を組み合わせて詳細な解析を行う。これらの評価結果を踏まえた上で、結合形成への介入方法を検討し、初代培養神経細胞への導入を進めていく。COVID19に伴う物品の生産や流通の混乱については昨年度に比べて落ち着いてきており、概ね当初の計画を再開できるものと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の流行および国際社会情勢の不安定により、主に国外製の試薬・物品の生産および流通に大幅な遅れが生じたこと、その影響によってモデル細胞株を用いた実験が主となり神経細胞を用いた実験への移行が思うように進まなかったことが主な理由である。またモデル細胞株を用いた実験の進展に伴い、研究目的の達成のためには新たなモデル細胞株を樹立する必要があると明らかになったことも理由である。COVID19の影響は少しずつ落ち着きつつあるため試薬・物品の生産および流通は徐々に改善してきており、また新たなモデル細胞株は間も無く樹立できる段階にある。したがって使用計画としては概ね昨年度実施予定だった計画を今年度へ流用する方針を考えており、具体的には新たに樹立したモデル細胞株を用いてmGluR1とGBRの結合への介入方法を確立し、神経細胞への評価へ応用する予定である。
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