動作の反復により動きの精度が向上する過程を運動学習といい、運動や発話を円滑にする重要な機能である。運動学習の仕組みは、小脳のプルキンエ細胞に発現する1型代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1)の活性化と、それに続く長期抑圧(LTD)という現象で説明される。近年、GABA-B受容体(GBR)がmGluR1と共局在し、GBRの活性化がmGluR1によるLTDを増強すると示されたが、その機序は未解明である。申請者はmGluR1とGBRの結合、両受容体間の細胞内シグナル調節を発見し、結合状態の変化と細胞内シグナル調節の関連性を見出した。これに基づき本研究では「mGluR1とGBRの結合状態変化がmGluR1の細胞内シグナルを調節してLTDを増強する」という仮説の証明を目標とした。初年度にはBRETを用いた結合状態解析法やバキュロウイルスを用いた蛍光バイオセンサーによる細胞内シグナル解析法を導入し、2年度には初代培養神経細胞におけるGBRの細胞内シグナル観察に成功した。またGBRとの結合能がmGluR1と大きく異なるmGluRサブタイプを発見し、mGluR1とGBRの結合評価における重要な対照となった。解析を進める中で、仮説の証明には新たなモデル細胞株が必要と判断し、3年度にはGBRを恒常発現させながらmGluR1または上述のmGluRサブタイプの発現量を操作できる共発現系を作出した。これにより4年度にはmGluR1の発現量とGBRシグナルの関連を見出し、更に受容体の細胞膜上の挙動解析が可能になった。本研究で確立した技術を用いて2年度にはエンドセリンA受容体とミューオピオイド受容体の相互作用解析、及び痒みにおけるミューオピオイド受容体の新たな作用を解明してそれぞれ共著論文を発表した。また4年度には神経細胞解析技術を応用してナノ粒子による神経細胞のシグナル解析を行い学会発表を行なった。
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