研究課題/領域番号 |
20K22766
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
松岡 祐子 愛媛大学, 医学部附属病院, 助教 (10879711)
|
研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
キーワード | T 細胞老化 / CAR-T / 腫瘍免疫 |
研究実績の概要 |
T細胞養子免疫療法は、患者から得たT細胞を、in vitroで活性化・増殖・場合によって遺伝子操作を行い、体内に戻す治療法である。近年最も注目されるT細胞容姿免疫療法の一つであるキメラ抗原受容体発現T (CAR-T)細胞を用いた治療では一部の造血器腫瘍に対し優れた効果が報告されているが、固形腫瘍などを含むすべてのがんに対して効果が報告されているわけではない。その一因として、in vitroで長期間培養し、体内に戻した際のT 細胞老化が挙げられる。In vitroで長期間培養したT 細胞では細胞老化が誘導され、増殖能が著しく低下するとともに、抑制性の受容体の発現が増加することにより、生体内での抗腫瘍活性が顕著に低下する。またメモリーT 細胞への分化能が低下することから長期的な抗腫瘍効果、再発予防効果が望めない。そのためin vitro培養時に老化T 細胞を除去し、正常なT 細胞のみを体内に戻す手法の開発が求められている。そこで本研究では、老化T 細胞の選択的除去法の確立と、それによる抗腫瘍活性の増強を目標とした。 申請者の所属する研究室では転写抑制因子Gfi1が、腫瘍免疫に必須であるTh1細胞分化に対して抑制的に働くことを報告している。さらに低分子化合物SH-2251がGfi1の発現を抑制することを見出している。そこでGfi1を標的とし、腫瘍細胞を移植したマウスに、SH-2251を連日経口投与することで抗腫瘍活性の増強を検証した。腫瘍サイズを測定することで評価したところ、コントロール群より抗腫瘍活性が低下している傾向であった。次に腫瘍局所ではサイトカインや細胞生存に必須な栄養源が著しく低いことから、同様の環境下でのT 細胞の生存をin vitroで検証した。その結果、IL-2非存在下でT 細胞を培養するとGfi1 欠損T 細胞では死細胞が大きく増加することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初期待していたGfi1を標的とした老化T 細胞の除去と抗腫瘍効果の増強という結果は得られなかった。その原因としてGfi1が、腫瘍局所環境で想定されるIL-2非存在下、もしくは低濃度条件下において、T 細胞の生存に関与していることが考えられる。つまりGfi1の発現が腫瘍局所で必要となる。そのためSH-2251を用いてGfi1の発現を抑制することは、老化細胞だけでなく正常細胞も細胞死が誘導されてしまうため、適切でないと考えられた。一方で、Gfi1の発現制御に関わる転写抑制因子Bach2をT細胞特異的に欠損したマウス、Bach2の発現調節に関与する腫瘍抑制因子MeninのT細胞特異的欠損マウスに対し、腫瘍細胞を移植すると、野生型マウスと比較して腫瘍細胞の生着が抑制された。これらの結果は、Bach2やMenin欠損マウスでは野生型に比べ抗腫瘍活性が増強していることを示唆している。しかし、一方で申請者の所属する研究室では、Bach2欠損CD4T 細胞、Menin欠損CD8 T細胞では抗原認識後早期に老化T 細胞様の表現型を示すことを報告している。これらの欠損マウス由来T細胞を老化T 細胞モデルとしてin vitroでの検証に利用できる。さらに、早期に細胞老化が誘導されるにも関わらず野生型に比べ強い抗腫瘍活性が見られる理由を検討することで、効果的な老化細胞除去法の確立と、抗腫瘍効果の増強につながる成果が得られることを期待している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在CD19を認識するCARを発現するCD19-CAR-T細胞をモデルにするためCAR-T細胞の作製系、及びCAR-T細胞の抗腫瘍活性の評価系を構築している。今後、より実用に近い条件で検討することが必要となってくるため、早い段階で条件を整える。次に、Bach2やMenin欠損CD8T 細胞をモデルとし老化細胞の除去法を検討する。具体的にはBach2欠損のマウスやMenin欠損マウスにおいてin vivoで見られた抗腫瘍活性が、in vitroで培養したBach2欠損CD8T細胞及びMenin欠損CD8 T細胞を担がんマウスに移植した場合、同様の効果が見られるかを検討する。評価の基準はマウスの生存率、腫瘍の生着、腫瘍浸潤CD8T細胞数である。また、Bach2やMenin欠損CD4 T細胞は、エフェクターCD4 T細胞への分化が亢進するとともに、制御性T細胞への分化が低下することが分かっている。そこで、Bach2欠損マウスやMenin欠損マウスにおけるCD4 T細胞の機能に着目した解析も並行して行う予定である。最終的にCAR-T細胞を用いた検討を計画する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度計画していた実験が次年度に繰り越すため、試薬などの物品の購入も次年度に調節したため。
|