研究課題/領域番号 |
20K22773
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
宮澤 拳 国立感染症研究所, 真菌部, 研究員 (30880231)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 糸状菌 / 菌糸塊形成 / 濁度 / 細胞壁多糖 / 抗真菌薬 |
研究実績の概要 |
液体振盪培養において糸状菌の菌糸が凝集塊を形成する性質は、単細胞生物で用いられる生育評価手法を糸状菌に適用できない要因であった。糸状菌の生育を正確に定量モニターするためには、人為的な菌糸凝集形成の制御法と測定手法の確立が必要であった。 令和2年度においては、病原糸状菌Aspergillus fumigatusにおいて表層に局在する細胞壁多糖α-1,3-グルカンと細胞外分泌多糖ガラクトサミノガラクタン(GAG)の二重欠損株を作製し、当該欠損株が菌糸分散性を示すことを確認した。また、当該欠損株の菌糸生長が濁度法により定量的に測定可能であることを発見した。更に、当該欠損株に対する抗真菌薬による濃度依存的な生育抑制が濁度により計測された。すなわち、菌糸分散状態を維持することで、単細胞生物と同様の生育測定手法が適用可能であることが示唆された。 令和2年度には、菌糸凝集形成の人為的な制御に向け、主にGAGについてその物性理解を目的とした解析を進めた。まず、A. fumigatusの培養上清からGAGを精製した。精製過程で、A. fumigatusのGAGは、他のAspergillus属菌に比べて水に難溶であることが明らかとなった。溶解可能な溶媒について検討したところ、リチウム塩を含むジメチルアセトアミドが利用可能であった。現在、当該溶媒に溶解させたGAGを用いて物性評価を進めている。また、有機溶剤存在下では生物的な解析手法が限られるため、水系で評価可能となるようGAGを酵素的に部分的加水分解して物性評価をすることも検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
糸状菌の生育測定手法として、A. fumigatusの二重欠損株の菌糸生育が濁度により計測可能であることを示した。また、抗真菌薬濃度依存的な菌糸生育抑制を定量的に示した。これらの成果については国際誌へ投稿中である。 一方、α-1,3-グルカンやGAGの物理的化学的な性質評価のために所外の施設で実施を予定していた解析が、新型コロナウィルス感染拡大のため不可能であった。A. fumigatusのGAGが想定よりも水溶性が低いことが判明したが、溶解可能な溶媒条件を発見し、所内で実施可能な物性評価を進めている。 以上のことから、研究課題はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、GAGについては令和2年度に引き続きその物性評価を進める。α-1,3-グルカンについてもその物性評価に必要な糖被覆粒子を作製し、凝集回避が可能かつ低細胞毒性である条件を検討する。また、当初の予想よりも濁度法による生育評価が効率的に実施できたことから、A. fumigatusの二重欠損株をモデルとして抗真菌薬のスクリーニング手法についても検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に実施予定であった所外での研究が不可となったこと、新型コロナウィルス関連の業務への対応により、物品費および旅費が令和3年度使用額として生じた。
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