研究実績の概要 |
糸状菌は液体振盪培養時において、分生子が発芽して菌糸が伸長すると、凝集して菌糸塊を形成する。この性質は、糸状菌に対して単細胞生物で用いられる生育評価手法を適用できない主因であった。糸状菌の生育を正確かつ定量的に計測するためには、菌糸凝集の人為的な制御法と測定手法の確立が必要であった。 令和4年度においては、令和3年度において課題であった、ヒト病原性糸状菌Aspergillus fumigatusの主要なα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子(ags1)とガラクトサミノガラクタン(GAG)合成酵素遺伝子(gtb3)の二重遺伝子破壊(Δags1Δgtb3)株が条件によっては菌糸が塊を形成する原因について調べた。Δags1Δgtb3株の菌糸にはα-1,3-グルカンを標識するプローブが結合したことから、未破壊のα-1,3-グルカン合成酵素遺伝子であるags2, ags3の寄与が示唆された。そこで、ags1-ags3およびgtb3の四重遺伝子破壊株を作製したところ、試験した何れの培地条件でも菌糸が分散状態を維持した。 これまで、濁度の計測は培養中のある時点における測定に限られており、スループットに課題があった。そこで、令和4年度にリアルタイム濁度測定装置を四重遺伝子破壊株の培養に適用したところ、連続的な生育曲線を描写することに成功した。また、培地条件の違いによる生育曲線の違い(増殖開始の時間、増殖速度など)を評価することができた。当該装置を用いることにより、迅速かつ高精度に抗真菌活性を示す候補化合物をスクリーニング可能であることが示唆された。
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