マラリア原虫は赤血球寄生原虫であり、宿主赤血球へと侵入する際に細胞内シグナル伝達を介して原虫タンパク質の分泌を制御する。ネズミマラリア原虫(Plasmodium yoelii)が保有するジアシルグリセロール(DAG)をホスファチジン酸(PA)へと転換させるジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)の1つであるDGK1欠損マラリア原虫は赤血球侵入関連分子の細胞内局在の変化、分子分泌の低下、その結果に伴う原虫のマウスへの感染率と病原性の低下という表現型を示した。ネズミマラリア原虫は2つのDGKを有しており、その2つが相補的な機能を有しているかを検討するためにDGK1/DGK3二重欠損原虫を作出した。DGK1欠損原虫とDGK1/DGK3二重欠損原虫間における赤血球侵入効率には変化がなかったため、DGK1のみがマラリア原虫の赤血球侵入時に必要な酵素であり、赤血球侵入過程において2つのDGK間に相補的作用はないという結論に至った。 またDGK1によって転換されるPAはPHドメインを有するタンパク質と結合することが知られており、原虫が保有するPHドメイン誘導型欠損原虫の作出と解析を並行して実施した。その結果PHドメインを有する分子の1つであるAPHを誘導型欠損した原虫でDGK1欠損原虫同様に赤血球侵入関連分子の表面分泌が阻害される知見を得た。その一方でAPH欠損原虫では赤血球侵入関連分子の細胞内局在の変化は見られなかった。これらの結果からDGK1によって転換されるPAとAPHの相互作用が赤血球侵入関連分子の分泌には必須だが、それら分子の細胞内局在はDGK1由来のPAのみが関与する可能性が示唆された。
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