研究実績の概要 |
CD4T細胞に感染したHTLV1は長い潜伏期間(60年以上)の後、感染者に悪性腫瘍であるATLを惹起する。日本では九州を中心に約100万人のHTLV1キャリアが存在し、その2-5%はATLを発症すると予想されている。HTLV1はCD4T細胞に感染後、ウイルス抗原としてEnv, Gag, Tax, HBZなどを発現する。感染初期に生体内でのHTLV1感染細胞はGag, Pol, Taxを強く発現する。一方でそれらを発現する感染細胞はCTLの標的となり、発現の弱い感染細胞のクローンが形成されていく。感染細胞内でのHBZの発現はGag, Pol, Taxに比べれば弱いものの、感染初期から恒常的に保たれている。これまでHTLV1特異的CTLの解析は腫瘍原性を持つTaxとHBZを中心に行われており、生体内でTax特異的CTLは主に感染初期に、HBZ特異的CTLは感染後期にそれぞれHTLV1感染細胞の増殖をコントロールしていると考えられている。ATLに対する治療としては化学療法やヒト化CCR4抗体などの治療法が試みられ、一部の患者で効果を上げている。しかし、多くのATL患者には有効な治療法が見つかっていない。近年多くのがん患者に対して様々な免疫療法(がんワクチンや免疫チェックポイント阻害薬など)が試みられており、特に直接腫瘍細胞を攻撃する事が出来るCAR(Chimeric antigen receptor)やT細胞受容体(TCR)を遺伝子導入したT細胞の移入療法(Adaptive cell transfer therapy)は一定の効果を挙げている。本研究で申請者は新たな抗がん治療法として効果が期待されるT細胞移入療法に適した高親和性HTLV1抗原特異的TCRの探索を行う。
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