研究実績の概要 |
HTLV-1はCD4T細胞に感染することで腫瘍性疾患の成人T細胞白血病(ATL)や慢性炎症性疾患のHAM(HTLV-1-associated myelopathy)を引き起こす腫瘍ウイルスとして知られている。前者は長い潜伏感染(60年以上)の後にキャリアで発症し、非常に予後の悪い疾患の一つである。その感染の間にHTLV-1はウイルス抗原としてEnv, Gag, Tax, HBZを発現することでCD4T細胞を不死化に誘導する。それらの抗原は宿主免疫応答の標的となり、HTLV-1関連疾患の発症予防に寄与していることが示唆されている。これまでATLの治療としては化学療法が用いられてきた。一方、HTLV-1感染細胞で発現が上昇しているCCR4(C-C chemokine receptor type 4)に対するヒト化モノクローナル抗体(モガムリズマブ)を投与することでATL細胞やHAMでの感染細胞を生体内から排除する治療法が始まっている。近年、新たな癌治療の手法としてがんワクチンや免疫チェックポイント阻害を代表する免疫療法が試みられている。それらの中でCAR(Chimeric antigen receptor)やT細胞受容体(TCR)の遺伝子を導入した自己T細胞を用いた移入療法(Adaptive cell transfer therapy)が成果を挙げている。特にTCRはHLA/ペプチド複合体を認識して活性化シグナルをT細胞に伝えるため、抗原特異的T細胞を用いた細胞移入療法は癌細胞に対して高い特異性を持つことが考えられている。 本研究ではシングルセル解析に基づいたT細胞の網羅的な解析によってHTLV-1抗原に特異的なT細胞を同定し、最終的には新たな抗ATL治療法としてのT細胞移入療法で利用可能な高親和性のTCRを得ること目的にしている。
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