研究課題/領域番号 |
20K22792
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研究機関 | 岐阜医療科学大学 |
研究代表者 |
所 俊志 岐阜医療科学大学, 薬学部, 講師 (10551088)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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キーワード | 腸管内感染制御 / 腸管出血性大腸菌 / 腸内細菌叢 / 多様性 / IgA抗体 |
研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)O157の腸管内感染マウスモデルを用い、腸管内感染制御における腸内細菌叢及び自然IgA抗体の役割について解析を進めている。 EHEC O157感染に抵抗性のC3H/HeN及び感受性のICRの2系統のマウスを用いた。マウスに、アンピシリン、バンコマイシン、ネオマイシン及びメトロニダゾールの単剤又は4剤混合を、1日2回、2週間経胃投与した。投与終了5日後にEHEC O157を経胃接種した。接種後1、3、8及び14日の糞便中のEHEC O157の定量を、定量PCR及び培養法により行い、それぞれ糞便1gあたりのコピー数及びcolony forming unitとして算出した。 アンピシリン単剤及び4剤混合投与ICRは、接種後1日の糞便中コピー数が、その他の抗菌剤単剤投与ICR及びいずれのC3H/HeNに比較して高かった。4剤混合投与ICRは、アンピシリン単剤投与ICRよりコピー数が高く、培養法でEHECが定量された。一方、アンピシリン単剤投与ICRは培養法ではEHECの定量はされなかった。アンピシリン単剤及び4剤混合投与ICRは、接種後3及び8日においても高いコピー数を維持し、両マウスともに培養法でEHECが定量された。4剤混合投与C3H/HeNは、8日にコピー数は検出限度以下となった。 これらの結果は、腸内細菌叢の組成・多様性について、系統差及び抗菌剤投与による改変を組み合わせることで、EHECの腸管内感染に対する抵抗性の異なる腸内環境を作り出すことができること示している。これらをもとに、EHECの腸管内定着から排除までの経過で、それぞれの腸内細菌叢の組成・多様性及び腸内IgA抗体量を比較することにより、腸管内感染制御における腸内細菌叢及び自然IgA抗体の役割を解析できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究の実施が遅れた理由は、EHEC感染マウス実験の再現性が取れなかったことによる。用いたSPFマウスにおいて、経胃接種したEHECの腸内定着菌量及び定着期間はごくわずかであった。 研究実施計画では、EHEC感染マウス実験において、EHECを経胃接種したマウスの苦痛軽減及びマウスの衰弱・死亡により実験目的を達成できない可能性を排除するために,接種菌株としてstx1/stx2 両遺伝子欠失株を用いるとした。本田賢也博士(慶應大、理研)らとの共同研究において、stx1/stx2 両遺伝子欠失株を接種した無菌マウスは死亡せず、大腸上皮細胞へのEHECの接着が観察された(Cell, 163:367-380)。しかし、本研究で用いるSPFマウスのように、腸内細菌叢を有する腸内においては、stx1/stx2 両遺伝子欠失株は腸内に安定に定着しなかった。 EHEC O157:H7の産生するStxがEHEC O157:H7の腸内定着を促進するとの報告がある(PNAS, 103:9667-9672)。
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今後の研究の推進方策 |
再現性あるEHEC感染マウス実験の実施のために、接種菌株をstx1/stx2 両遺伝子欠失株からStx産生野生株に変更した。 腸内定着したEHECの産生するStxにより、マウスの衰弱が予想されることから、体重の減少割合及び外観観察事項(毛並み、動作、姿勢等)から人道的エンドポイントを設定して実験を実施する。実験の目的を達成するために、実験を中断するマウスの匹数を考慮して、最低限必要な匹数のマウスを用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究実施計画では、EHEC感染マウス実験において再現性ある成績が得られず、計画の進行が遅延した。計画を見直し、計画を変更する必要が発生した。変更に伴う別途使用額の発生はない。変更を加えた研究実施計画を進行する。
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