研究課題/領域番号 |
20K22797
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 良太 東京大学, 保健・健康推進本部, 助教 (80647660)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 膵臓癌 / 交感神経 / 副交感神経 / 腫瘍微小環境 |
研究実績の概要 |
膵特異的な変異型Kras発現及びTGFβ2型受容体ノックアウトによる膵臓癌マウスモデル(PKFマウス)の腫瘍組織及び腫瘍から樹立した細胞株を用いて、腫瘍細胞における神経栄養因子と交感神経・副交感神経シグナルの受容体発現を評価した。また腫瘍内の交感神経及び副交感神経の浸潤について評価した。 PKFマウスの腫瘍から樹立した膵癌細胞株における神経栄養因子の発現解析において、特にnerve growth factor (NGF)及びbrain-derived neurotrophic factor (BDNF)の発現上昇を認めた。最も多く発現していたのはBDNFであり、この結果はヒト膵臓癌における傾向と一致していた。またこの結果は変異型Kras及び変異型p53を持つマウス膵臓癌細胞がNGFを最も多く発現することとはやや異なる結果であり、腫瘍が持つ変異により神経栄養因子の発現が異なっており、さらに腫瘍内神経の浸潤や機能の違いをもたらしている可能性が示唆された。腫瘍組織内における神経浸潤について各種神経マーカーの発現を免疫染色で評価したところ、交感神経の増生が認められた。また腫瘍細胞におけるアドレナリンβ2受容体の発現を確認した。これらの結果により、腫瘍細胞におけるTGFβシグナルの異常が神経栄養因子の増加を介して腫瘍内神経の増生に寄与している可能性、及びこのモデルにおいて交感神経シグナルが腫瘍増大に寄与している可能性が示唆された。TGFβシグナルの異常は膵臓癌の大部分で認められるため、p53の変異がない腫瘍においても腫瘍内神経が治療標的となる可能性があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、TGFβ2型受容体ノックアウトマウスを用いた膵臓癌モデルを用いて交感神経を始めとする腫瘍内神経やシグナル経路の解析、神経栄養因子の発現を解析することができた。またこれらの結果を基にマウスに対する治療介入を行う準備を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
膵特異的な変異型Kras発現及びTGFβ2型受容体ノックアウトによる膵臓癌マウスモデル(PKFマウス)におけるアドレナリン2型受容体(ADRB2)シグナルが腫瘍進展に寄与している可能性を検討するため、PKFマウスに対してADRB2阻害薬を投与し腫瘍形成及び進展、マウス生存期間への影響を解析する。また腫瘍微小環境における免疫細胞浸潤や線維芽細胞の活性化、腫瘍内シグナルの変化等についても検討し、TGFβシグナル異常を伴う膵臓癌における神経シグナルの作用について検討する。ADRB2ノックアウトマウスとの交配によりPKFマウス腫瘍が受ける影響についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部の試薬や消耗品については共用のものを用いることで当初予定より使用額が少なくなった。次年度については動物実験を多く予定しており、また免疫染色などで抗体を当該年度よりも多く要する予定である。
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