研究実績の概要 |
TGFβシグナルが膵臓癌の腫瘍内神経に与える影響について引き続き解析を進めた。膵臓癌マウスモデルであるPtf1a-Cre/KrasG12D/Tgfbr2flox/flox (PKF)マウスが一定の週齢になったところでアドレナリンβ2受容体(ADRB2)阻害薬であるICI118,551単剤もしくはPBSを投与してマウスの生存期間及び腫瘍サイズを解析したところ、生存期間・腫瘍サイズ共に有意な差は認められなかった。次に得られた膵腫瘍を免疫組織学的に解析したところ、腫瘍における増殖マーカーの発現や細胞死、腫瘍間質における各種免疫細胞浸潤や線維芽細胞の活性化の指標であるαSMAの発現に明らかな差は認められなかった。KrasG12D/Trp53R172H/Pdx1-Cre (KPC)マウスに対して同様の治療をgemcitabineと併用して行った際は生存期間の延長などの治療効果が見られており今回の結果とは異なっていたことから、TGFβシグナル経路の不活化変異を持つ、もしくはp53野生型の膵臓癌においては、腫瘍進展におけるADRB2シグナルへの依存度が低下している可能性があると考えられた。また腫瘍内神経の増生についてもPKFマウスの膵臓癌組織ではKPCマウスと比較してやや少ない傾向が見られており、さらに神経栄養因子の発現パターンもこれらのマウスモデルで異なっていることから、ADRB2シグナルによる神経栄養因子の発現調節機構が異なっている可能性があると考えられた。PKFマウスにおけるADRB2シグナルの役割をさらに検討するため、ADRB2ノックアウトマウスとPKFマウスとの交配を進めた。
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