本研究は大腸癌におけるKPC1およびNFκB制御異常のメカニズムとその臨床的意義を明らかにすることを目的しており、大腸癌細胞株を用いたin vitroの実験および大腸癌の病理組織検体を用いた免疫化学染色を行った。in vitroの実験については、初めにsiRNAによりKPC1をノックダウンし細胞増殖能・遊走能の評価を試みたがいずれも明らかな変化を認めなった。KPC1発現vectorを用いてKPC1を高発現させ同様の評価を行ったところ、KPC1高発現により細胞増殖能は有意に抑制された。一方で遊走能については再現性のある明らかな変化を認めなかった。大腸癌の病理組織検体を用いた検討については、KPC1およびNFκB p50の免疫化学染色を行い臨床病理学的因子との関連を解析した。その結果、KPC1の発現量とNFκB p50の発現量や癌の深達度との間に相関を認めた。 Preliminaryなデータではあるもののこれらの結果から、KPC1は大腸癌の増殖や深達度に関与していることが示唆される。今後これらに関与する下流のNFκBシグナルの変化、さらには抗癌剤抵抗性・放射線抵抗性等への影響の可能性など、基礎的な実験を継続しデータを収集していく。NFκB・KPC1を軸とした制御異常は大腸癌の細胞増殖・アポトーシス・血管新生・転移等複数のプロセスに影響を及ぼす重要な因子である可能性があり、引き続き研究を行う必要があると考える。
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