DNA脱メチル化剤である5-アザシチジンは、血液腫瘍治療の第一選択薬であるが、その作用機序は完全には解明されていない。近年の研究から、5-アザシチジン投与により内在性レトロウイルスを含む転移因子の発現が上昇し、宿主自然免疫系の活性化及びアポトーシスを誘導すると推察されている。しかしながら、5-アザシチジン投与はゲノム全体の低メチル化を引き起こすため、どの配列の低メチル化が重要なのかは不明である。本研究において、LTR12Cが最も強い発現上昇を示す内在性レトロウイルスであることが判明した。そこで、サイト特異的にDNA脱メチル化を促すCRISPR/dCas9-SunTag-TET1、および特定の遺伝子の発現上昇を促すCRISPR activationを用いてLTR12Cの機能解明に挑んだ。がん細胞内でLTR12C特異的な発現を誘導し、自然免疫系遺伝子の発現レベルを調査したところ、有意な差は検出されなかった。従って、自然免疫系の活性化は、LTR12Cに依存しないと考えられる。今後、SINEやLINEなどその他の転移因子の機能を調査する必要がある。また、LTR12Cは機能未知であるため、その解明に挑んだ。内在性レトロウイルスは、プロモーターやエンハンサーなどの転写調節領域として、宿主であるヒト遺伝子の発現を直接的に制御するエレメントである。しかしながら、その機能を解析したところ、LTR12Cのプロモーター活性はLTR12Cエレメントに由来するというより、その周辺領域の配列に依存していた。一方でエンハンサー活性はLTR12Cエレメント上に見られたため、LTR12Cは潜在的なエンハンサー活性のみを持つ内在性レトロウイルスであることが示唆された。LTR12Cによる宿主ヒト遺伝子の発現制御は、LTR12C配列だけでなく、その周辺領域によっても調節されていることが明らかとなった。
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