研究実績の概要 |
急性骨髄性白血病は予後不良の造血器腫瘍である。特に、侵襲の強い化学療法や造血幹細胞移植が実施できない場合には根治治療が困難であることから、高齢者にも実施可能な、有効かつ安全な新規治療の開発が喫緊の課題である。近年のゲノム解析では、急性骨髄性白血病や骨髄異形成症候群などの骨髄系腫瘍において、約10-20%がコヒーシン複合体の遺伝子変異を有することが報告されている。コヒーシン遺伝子変異が白血病を引き起こす分子機序の詳細は依然不明な点が多かったが、最近、申請者らは白血病におけるコヒーシン遺伝子変異が、染色体三次元構造の破綻や広範な転写異常をもたらすことで白血病の発症・進展を引き起こすことを報告した(Ochi et al., Cancer Discovery 2020)。そこで本研究においては、引き続きコヒーシン遺伝子変異によって生じる分子異常を詳細に解明するとともに、特異的治療薬がないコヒーシン変異を標的とした新規治療法の開発を目指す。 研究期間において、ゲノム編集を応用し、コヒーシン欠失白血病細胞株を複数樹立することで、オミクス解析や候補薬剤の有効性検証を可能とする系を確立した。実際にエピゲノムを介して薬効を発揮する抗癌剤の存在下で細胞培養を行うと、一部の抗癌剤はコヒーシン欠失株に特異的な増殖抑制効果を示した。さらに、この効果は免疫不全マウスに移植した腫瘍移植モデルでも同様に観察された。また、分子異常の解明のために、新たにコヒーシンノックアウトマウスと他のドライバー遺伝子変異を掛け合わせた複数変異マウスモデルを作成し、コヒーシンと他のドライバー遺伝子変異の協調的な効果を表現型および分子レベルで示した。さらに、CRISPRライブラリを用いたコヒーシン欠失細胞株の脆弱性スクリーニングを実施した。
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