がん組織はがん細胞と様々な非がん細胞により構成される複雑な組織であるが、がん細胞とCAF(cancer-associated fibroblasts)やマクロファージ等の非がん細胞が形成する共生空間は、治療抵抗性と密接な関係があると考えられる。卵巣がんのうち、卵巣明細胞腺がんは抗がん剤抵抗性を示す症例が多く、予後が悪い点が臨床上の大きな問題となっている。 本研究では卵巣明細胞腺がんの治療抵抗性ニッチの本態を明らかにするため、予後情報が判明した症例の凍結組織を対象として、シングル核解析と空間的トランスクリプトームの統合解析を行った。卵巣癌の標準治療抗がん剤(カルボプラチン+タキゾール)に抵抗性症例と感受性症例に分けてシングル核解析を行い比較した所、抵抗性症例で有意に増加するがん細胞群が認められた。これらの細胞群の腫瘍内局在を空間的トランスクリプトームとの統合解析で調べたところ、がん細胞とCAFの混在領域に局在する事が明らかとなり、治療抵抗性ニッチを形成すると考えられた。抵抗性ニッチに局在するがん細胞においては、各種インテグリンやHypoxiaに関わる遺伝子の発現上昇が認められ、これらのニッチ因子の上昇は予後増悪と相関した。これらの結果より、難治性の卵巣明細胞腺がん組織においてがん細胞とCAFの相互作用によって化学療法抵抗性ニッチが形成されていることが明らかとなり、その相互作用を阻害することで治療抵抗性が解除される可能性が見出された。 現在、CAFの治療抵抗性における役割を明らかにするため、がんオルガノイドとCAFのin vitro共培養系を樹立しており、治療抵抗性の機能的検証を進めている。
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