研究課題/領域番号 |
20K22829
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小林 実 東北大学, 大学病院, 助教 (40885547)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | ABCC3 / MRP3 / Wntシグナル / 大腸癌 / 二次胆汁酸 / ABCトランスポーター / 家族性大腸腺腫症 / オルガノイド |
研究実績の概要 |
本研究は、WntシグナルによるABCC3の発現抑制が、大腸癌の多段階発癌機構に与える影響を明らかにすることを目的に掲げ、ABCC3が胆汁酸排出トランスポーターとして働くことに着目し、ABCC3の発現変化が胆汁酸の細胞内濃度に与える影響、さらには二次胆汁酸であるデオキシコール酸がMAPKシグナルに与える影響を検証する計画を立案した。 令和2年度は、研究計画における(A)『家族性大腸腺腫症(FAP)症例におけるABCC3発現の検討』について実験を行った。 これまで明らかにした大腸癌におけるWntシグナルによるABCC3の発現抑制が、前癌病変である腺腫の段階で既に起こっていることを確かめる目的で、まず当科で手術を行ったFAP患者の正常大腸粘膜組織と腺腫組織からtotal RNAを抽出し、RT-qPCRによってABCC3の発現を確認した。その結果、FAPの腺腫において正常組織と比較してABCC3の発現が低下していることが確認できた(p=0.049)。 次に、公開されている次世代シーケンサーのデータベースを利用し、FAPモデルマウス (APC min/+ マウス)の正常腸管上皮組織、腺腫由来のオルガノイドにおけるABCC3遺伝子の発現変化を解析したところ、FAPモデルマウスの腺腫から作成したオルガノイドにおいても、正常組織から作成したオルガノイドと比較してABCC3の有意な発現低下を認めた(p<0.01)。 現在、2010年から2019年までに当研究室で手術を行ったAPC遺伝子に変異を持つ家族性大腸腺腫症(FAP)患者25例のホルマリン固定標本を用いて、正常組織と低異型度腺腫の抗β-カテニン抗体、抗ABCC3抗体による免疫組織化学を行い、低異型度腺腫におけるWntシグナル活性化(核・細胞質のβ-カテニン蓄積)とABCC3の発現低下を確認する実験を施行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
FAPの手術症例が少ないため、FAP患者組織由来のオルガノイドを用いて行う予定である実験計画(B)『ABCC3発現変化による細胞内胆汁酸濃度とMAPKシグナルへの影響の解明』の開始が当初予定していた計画より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
実験計画(A)『家族性大腸腺腫症(FAP)症例におけるABCC3発現の検討』については、既に遺伝子レベルではFAPの腺腫におけるABCC3の発現低下を確認できているため、引き続き免疫組織化学を行いFAPの腺腫におけるABCC3の発現低下をタンパク質レベルでも確かめる。 実験計画(B)『ABCC3発現変化による細胞内胆汁酸濃度とMAPKシグナルへの影響の解明』については、他研究室で既に樹立されたFAP患者の腺腫由来のオルガノイドを譲渡していただき、それを用いて実験を進めていく予定である。 さらには実験計画(C)『ABCC3の発現低下と二次胆汁酸の蓄積が腫瘍増殖能に与える影響の解明』についても、並行して実験を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度の実験はin silicoによる解析を主に行い、また生化学的な実験の多くは研究室に既存の試薬・器具を使用して行ったため、次年度使用額が生じた。 令和3年度は各種新規実験系を施行予定であるため、翌年度分として請求した助成金と合わせて試薬・器具を揃えた上で研究を行っていく予定である。
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