研究実績の概要 |
本研究では、WntシグナルによるABCC3の発現抑制が、大腸癌の多段階発癌機構に与える影響を明らかにすることを目的として研究を行った。 まず、これまで明らかにした大腸癌におけるWntシグナルによるABCC3の発現抑制が、前癌病変である腺腫の段階で既に起こっていることを確かめる目的で、家族性大腸腺腫症(FAP)患者の正常大腸粘膜組織と腺腫組織からtotal RNAを抽出し、RT-qPCRによってABCC3の発現を確認した。その結果、腺腫において正常組織と比較してABCC3の発現が低下していることが確認できた(p=0.049)。また、免疫組織化学においても蛋白レベルで同様の発現変化を確認できた。さらに、公開されている次世代シーケンサーのデータベースを利用し、FAPモデルマウス (APC min/+ マウス)の正常腸管上皮組織、腺腫由来のオルガノイドにおけるABCC3遺伝子の発現変化を解析したところ、FAPモデルマウスの腺腫から作成したオルガノイドにおいても、正常組織から作成したオルガノイドと比較してABCC3の有意な発現低下を認めた(p<0.01)。 次に、令和3年度はABCC3発現変化による細胞内胆汁酸濃度とMAPKシグナルへの影響を解明する目的で、レンチウイルスベクターを用いたABCC3過剰発現発現大腸癌細胞株(HCT-15,HCT116,SW620)、ならびにノックダウン細胞株(HT-29)を作成した。さらにこれらを対象にしてRNA-seqを施行した。このデータからABCC3過剰発現、ノックダウンがその他の遺伝子の発現に及ぼす影響を解析した。また、二次胆汁酸の中で大腸癌発癌作用の知られているデオキシコール酸をニトロベンゾオキサジアゾール (NBD) で蛍光標識した化合物を上記細胞株に投与することでABCC3発現変化に伴う細胞内胆汁酸濃度への影響について検討した。
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