研究課題/領域番号 |
20K22851
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
川俣 太 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70825629)
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研究期間 (年度) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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キーワード | 膵癌 / 遺伝子解析 / ドライバー遺伝子 / hCGβ |
研究実績の概要 |
膵癌は極めて予後不良な悪性疾患である。現時点ではKRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4が膵癌発生進展のドライバー遺伝子と考えられている。しかし、膵癌の遺伝子変異や膵癌再発・転移巣の遺伝子変異については未だ未解明な部分が多い。過去に我々は大腸癌原発巣と転移巣の比較により、同一癌組織の188変異遺伝子の多点解析および転移過程における時空間的な解明を行い、肝転移巣で有意にコピー数の増加(ERBB2、FGFR1)およびWhole genome duplication を認める症例を同定し、分子標的治療薬のトラスツズマブ (Trastuzumab: ERBB2)およびレゴラフェニブ (Regorafenib: FGFR1)が転移巣に奏功する可能性がある症例を選別することに成功した。今回、EMTを誘導する代表的な分子であるTGFβと発生学的に共通の塩基配列を有するChorionic gonadotropinβ(hCGβ)がゲノム解析の結果より、新たな膵癌発生進展のドライバー遺伝子と考えた。そこで、膵癌におけるhCGβの臨床病理学的検討および、膵癌細胞株に対しshRNAを用いてhCGβ遺伝子ノックダウンし、膵癌においてhCGβの発現がどのように上皮間葉系移行(EMT)に関与しているかの検討を行った。膵癌におけるhCGβの発現は手術切除検体の70%に認められ、リンパ節でのhCGβの発現は68%に認められた。腫瘍マーカーとの相関についてはCEA、CA19-9とhCGβ発現が有意に相関していた(P = 0.001、P = 0.043)。術後予後や再発に関する検討ではhCGβの発現は膵癌の生存に寄与する独立した予後不良因子であった(P = 0.0019)。膵癌細胞株における実験では、shRNAを用いてhCGβ遺伝子ノックダウンした膵癌細胞株の浸潤能、遊走能がコントロール細胞株と比較して有意に低下し(P<0.05)、EMTに関与するSlug, Vimentin、α-SMAの発現低下が認められた。これらの結果により、膵癌においてhCGβの発現が新たな分子標的マーカー、ドライバー遺伝子の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では膵癌原発巣とペアーの正常膵組織、膵癌転移巣から核酸抽出を行い、抽出したDNAから、single nucleotide variant、コピー数の変異、structural arrangementの相違を検討する。しかし、膵癌の遠隔転移症例では化学療法が選択され、手術による根治術が施行されない症例が多く存在する。そのため、膵癌転移巣の手術検体を得る事が困難で、原発巣と転移巣の比較により、どの遺伝子変異が最初に出現したか、あるいは臨床経過や治療の後半で獲得されたのか、遺伝子変異のclonal architectureを定量的に把握し、明らかにすることが困難となっている。
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今後の研究の推進方策 |
膵癌原発巣のゲノム解析から得られたドライバー遺伝子の一つであるhCGβの膵癌細胞株への遺伝子導入に成功した。現時点ではKRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4が膵癌発生進展のドライバー遺伝子と考えられているが、今回EMTを誘導する代表的な分子であるTGFβと発生学的に共通の塩基配列を有するhCGβが膵癌局所浸潤や膵癌の遠隔転移の形成に、どのように寄与しているか、ヌードマウスの移植実験にて検討(n=20)する。これにより、生物学的、分子学的プロファイリング、化学療法の治療反応性および治療効果の解析を行い、膵癌治療標的の可能性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲノム解析から得られたドライバー遺伝子の一つであるhCGβの膵癌細胞株への遺伝子導入に成功したものの、ヌードマウスの移植実験まで到達できなかったため。 今回、hCGβの遺伝子導入を行った膵癌細胞株をヌードマウスの移植実験にて検討(n=20)する。これにより、生物学的、分子学的プロファイリング、化学療法の治療反応性および治療効果の解析を行い、膵癌治療標的の可能性を検討する。
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