研究課題
抗CD20モノクローナル抗体Rituximabを含む免疫化学療法の発展により、B細胞リンパ腫(B cell lymphoma: BCL)の長期治療成績は著明に改善した。例えば最大病型であるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse large BCL; DLBCL)では、70%程度が完治するようになった。しかしながら、未だに高度難治性で1年以内に致命的転機をたどる超高リスク症例が存在し、その治療戦略の開発は真の疾患克服に向けて残された重要課題である。そこで、本研究ではMYC誘導性のBCL発症マウスモデルを活用した全ゲノムCRISPR/Cas9生体内網羅的ノックアウトスクリーニングを行い、MYC過剰発現との協調作用により、その欠失が超高リスクBCLを形成する新規がん抑制遺伝子の同定を目指すこととした。また、患者由来BCL細胞の解析から、その臨床的意義についても明らかにする。この基礎・臨床両面からのアプローチで、現時点で治癒困難な難治BCLの克服を可能にする治療戦略を開発することを本研究の主目的とした。本研究では上記の背景や研究成果をもとに、研究期間内に大きく以下の2 つの点を明らかにする。①BCL 発症マウスモデルを用いた新規がん抑制遺伝子の同定:マウス全ゲノムsgRNA ライブラリーを使用した新規がん抑制遺伝子候補探索のための生体内一次スクリーニング(一部予備実験済み)と生体内検証実験(バリデーション)②臨床検体を用いた、同定された新規がん抑制遺伝子候補の変異有無の検討申請者所属施設における、BCL 腫検体を用いた同定遺伝子変異の有無の検討の大きく2段階の行程を本研究で計画している。このうち、2020年度は①を行った。
2: おおむね順調に進展している
申請者はCas9 恒常的発現マウスと、BCL 発症マウスモデルとの交配により両形質を有する胎仔肝由来造血幹前駆細胞を得ることに成功し、これにレンチウイルスを用いて構築済みのマウス全ゲノムsgRNA ライブラリー(19,150 蛋白質コード遺伝子を標的とする87,897 sgRNA)を導入し、致死的放射線照射を行った野生型マウスに移植することで造血システムを再構築し、移植マウスの腫瘍発症時期を観察する生体内遺伝子ノックアウトスクリーニングを開始した。得られた腫瘍よりゲノムDNA を採取し、sgRNA 配列領域を次世代シーケンサーで解析を行い、腫瘍細胞内で濃縮されたsgRNA から新規がん抑制遺伝子候補の同定作業を順次行っており、この中で既知のがん抑制遺伝子を検出したことから実験システムが有効に機能していることを確認できたことと同時に、複数の有力新規がん抑制遺伝子候補を同定しつつあり、さらなる探索を継続することができている。
本研究は①BCL 発症マウスモデルを用いた新規がん抑制遺伝子の同定:マウス全ゲノムsgRNA ライブラリーを使用した新規がん抑制遺伝子候補探索のための生体内一次スクリーニング(一部予備実験済み)と生体内検証実験(バリデーション)②臨床検体を用いた、同定された新規がん抑制遺伝子候補の変異有無の検討申請者所属施設における、BCL 腫検体を用いた同定遺伝子変異の有無の検討の大きく2段階の行程を軸に研究を推進している。現在その過程において実験システムの妥当性を確認するとともに、本研究の主目的である新規がん抑制遺伝子候補を複数同定しつつある。今後はこの中からvalidation実験により真の新規がん抑制遺伝子を同定し、難治性BCLの治療標的分子として臨床応用を視野に入れ、患者検体を用いた臨床プロファイルとの相関を検討する。同定された新規がん抑制遺伝子はB 細胞リンパ腫治療における新たな標的分子、バイオマーカーの候補となるため引き続き研究を進めていく予定である。
残金を使用して購入できる物品を認めなかったため、次年度に合算して使用する予定である。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件)
Annals of hematology
巻: - ページ: -
10.1007/s00277-021-04425-y
Infection and drug resistance
巻: 13 ページ: 3225-3232
10.2147/IDR.S273317