研究実績の概要 |
加齢に伴う腹部大動脈瘤(AAA)形成には性ホルモンの低下が寄与する可能性があるが、女性におけるAAA形成と拡大に女性ホルモンがどのように作用しているのか、その機序については不明な点が多い。本研究ではAAA形成の背景にある血管炎症・慢性炎症に注目し、女性ホルモンであるエストロゲンがこの炎症を抑制することでAAA形成を抑制するのではないかと仮説を立て、まずエストロゲンがAAA形成に与える影響とその機序解明を目的とした。 野生型メスマウスを用いて、20週齢で女性ホルモン欠乏の誘導およびエストロゲン補充を2用量の徐放剤を用いて行った。4週間後に、我々が確立した塩化カルシウムの局所塗布とアンジオテンシンⅡの持続投与モデルを用いて大動脈瘤誘導を、大動脈瘤誘導を行い、さらにその4週間後に回収して解析検討した。 大動脈径はAAA誘導によって拡大し、さらに卵巣摘出群ではsham手術群と比較し、優位に拡大した。EVG染色では、中膜の構造破壊がAAA誘導によって生じ、卵巣摘出+AAA誘導群でさらに進行することを示すことができた。また、卵巣摘出によって拡大したAAAは、エストロゲンの用量に依存性はなく優位に縮小した。免疫染色では、卵巣摘出とAAA誘導によってf4/80陽性の炎症性マクロファージが中膜から外膜に浸潤し、IL-6などのサイトカインに応答してリン酸化されるpSTAT3が同じく陽性となった。また、これらはの変化はエストロゲン補充により抑制された。Real time PCR を用いた大動脈組織のRNA解析では、F4/80, IL-6,IL-1βが卵巣摘出とAAA誘導によって上昇し、エストロゲン補充によってsham群と同レベルまで抑制された。補充したエストロゲンの用量間に優位差は認めなかった。 今後はエストロゲン受容体の関与などより詳細な機序解明を行う予定である。
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